新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

リストラなう!その21 去る側からの伝言

 このブログをRSSリーダーでお読みの方はお気づきでないだろうが、一昨日のエントリにこういうコメントをいただいた。

残される側の論理 2010/04/23 01:59
瀬尾さん。
このあいだは、ブログネタの社員への取材、おつかれさまでした。
しかし、ちょっとそろそろ勘弁してくれませんかねぇ。
つまりけじめをつけてください。

あなたは逃げ切り世代だからいいですが、
こちらはリストラ対象者でもなく、
外部との人脈を作るほどのキャリアもなく暇もなく、
逃げ切れず、
あなた世代より上の負の遺産を背負いつつ、
死ぬほど残業してるんですが。

稼いだ利益が少しでもあなたの退職金になるかと思うと反吐が出る思いです。

私はあなたのように、暴露ブログが受けたからって舞い上がる大人にはなりたくない。
そういう残される側の思いに思いをいたすことができない人を
先輩として尊敬はできません。
同僚を売って、何が面白いのですか?

いろんな意味で、
さようなら。

気に入らないなら、どうぞこのコメントは消してください。
コメントが消えたら、
私は一生あなたを笑い続けると思います。

 僕は返事をしなければならない。


 すまん。正直すまないと思っている。何ら役に立つことも残せず、君らの負担も減らせず、ただ去ることをすまないと思う。
 君は今回の対象者ではないんだね。外部の人はきっと「それでも辞めることはできるはず」と言うだろうが、事実上そんな選択肢がないことは僕もわかってる。君らと僕らの間には、受け取るメリットの差がありすぎる。僕らは例外的に多い退職金を受け取るが、君らが辞めるとしたらいっさい割増はない。これでは動きを封じられたと思うのも当たり前だ。
 君がいま辞めるとしたら、君に残されてるのは規定の退職金と若干の若さだけだ。
 たった一日生まれた日が違うだけでもこの差が生じる理不尽さは、本当に心が痛い。
 こんなこと言っても君には何の慰めにもならないな。すまん。


 いまさら何を言っても君には届かないかもしれないが、それを承知で言い残したいことがある。
 五十人が抜けた後、君らの負担は一気に増えるだろう。たぶん六月からではなく、もう来月から仕事は君らに押し寄せてくる。デスマーチが始まる。いますでに限界ぎりぎりまで長時間働いてる君は、数カ月持ちこたえたとしてもその先必ずパンクするだろう。
 頼むから、パンクしないでくれ。しゃがみ込んでもいいから、倒れないでくれ。
 業務フローを再検討し、仕事を減らしてくれ。減らすために必死になってくれ。


 君が優秀な働き手であることはわかる。たとえると君は昭和十九年の南方戦線にいる水木二等兵だ。僕は昭和の平和教育を受けたので『レイテ戦記』や『シン・レッド・ライン』を読むまで知らなかったのだが、日本兵はものすごく強かったそうだ。補給が途絶え、戦友が次々斃れ、物量豊富な敵軍が押し寄せるなかで僕らの父祖は逃げず、ずたずたになった戦線を維持し、乏しい武器で敵を撃退し、拠点を守った。寸土も譲らず奮闘した挙げ句、彼らはみな死んだ。
 君らはそうなってはいけない。


 君らが犠牲になって会社が生き残るのはまったく無意味だ。君らはまず自分の生き残りをかけて闘うべきなのだ。だからまず仕事を減らすことに必死になってほしい。
 必死になって時間を作り、少しでも早く家庭に帰ってほしい。家族といたわり合い、わずかでも自分の時間ができたらブログを書いてほしい。
 唐突か? ブログなんてやりたかないか?
 いや、君はブログを書かねばならない。でなければ他の方法で自分を表現しなければならない。


 外部との人脈を作るのはキャリアではない。誰それと長年仕事した、いくらいくら払ってきた、なんてのは会社を離れればキャリアにも人脈にもならない。発注してきたことは貸しにはならないのだ。「会社を辞められたんですか、じゃあ今までのお返しに仕事をお願いしましょう」なんて人はこれまでの仕事相手からは現れないはずだ。
 君はデスマーチに時間を費やすのではなく、自分の価値を高めることに注力しなければならない。そしてそれは、自分を表現することでしか実現できないのだ。


 僕の会社員人生には悔いがある。それは、いろいろ失敗したこととか、無能なまま終わったことじゃない。あまりにも忠実に、言われたことをこなし、やらねばならない仕事を引き受けてきたことだ。そりゃ働くのは楽しいし、自分を実現できるチャンスでもある。だが、それじゃダメなんだ。
 会社を失っても仕事を失わないための力は、会社の仕事をしてるだけじゃ身につかない。残念なことにそれを僕がわかったのはつい最近だ。君にはもっと早く気づいてほしい。
 何でもいいからブログを書き始め、君の中に眠るキラーコンテンツを発見するのだ。誰だって一つはキラーコンテンツを持っている。だがそれは表現しようとしないと見つからないものだ。文字にしないと読めないのだ。ああもどかしい。とにかく君は自分を表現するために時間を使うべきだ。


 この会社には、知られてないが異能の持ち主がいっぱいいる。去る者にも多いが、残る者にもたくさんいる。その中の何人か同志を募り、会社が命じることじゃないことを始めてほしい。君は優秀な兵士であることをやめ、海賊になるべきだ。
 君の上司は会社をやっと延命させることしかできないだろう。あるいはそれすらも不可能な弥縫策しか提示できないおそれがある。そんなのに付き合ってはいけない。それじゃデスマーチのままだ。君が従順な兵士としてデスマーチをこなしているうちに、君も会社も倒れてしまうだろう。君は自分が本当に好きなことを見極め、仲間と語らい、上司に反逆してそれを実行すべきだ。そうすることでしか会社は再生しない。


 悪いけど、僕はブログを書くのをやめない。もはやこれは僕にとって生き残るための手段になった。君に言われたくらいではやめないよ。
 だから君も黙ってないで自分を表現しなきゃいけない。黙って働き続けて斃れるなんて愚の骨頂だ。とにかくやりくりして時間を作り、生き残る力を高めてくれ。ブログやTwitterはそのためにある誰でも使える武器だ。
 そしておせっかいかもしれないが、生活水準を下げて機動性を高めてほしい。自由なステップを踏めるように身軽になってほしい。住宅ローンがあれば整理してほしい。
 怒るか? こんなことまで言うのは失礼が過ぎるか?


 今日の終業時刻まぎわ、僕は耳打ちされた。「さっき五十人目が提出したって」。
 僕は親指を立ててその人と祝福し合った。ちょうど終業のチャイムが鳴った(いつの間に復活?)。
 僕たちが抜ければ、この会社のトップヘビーは確実に改善される。君はもっともっと利己的になって活発に動き、生命力をつけ、生き残る術を磨くべきだ。そのスペースを作るために僕らは去る。
 お互い、勝手にやろう。どちらも生き残るために。(つづく)