新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

書籍化を決めた経緯を話します

 IT社長、問題点を整理してくれてありがとう。そして「たしかに」さん、前回エントリのタグ閉じミスは相変わらずでしょうか? Macでは意図通りに見えてるし、Win環境のChromeでも同様に見えてるのですが。ともあれ勉強になりました。そして「たしかに」さんに諭されてふんぎりがつきました。拙ブログ書籍化の話がたどってきた経緯をお話しします。


 まず最初に、書籍化について黙っていたことをお詫びします。長くてみっともないエントリなので読むのが面倒くさい人は【要約】だけお読みください。


 【このエントリの要約】
 1.各社からオファーがあったのは4月早々。いったん潰れてゼロになった。
 2.GW明けに新潮社にメール。ただし決定とは認識していない。
 3.5月20日に「いけるかもしれない」と確証を得る。
 4.本を出すことは「今後の予定」と関係ない。


■始まり
 もともと「書籍にしませんか?」というオファーはこのブログを初めて2回目か3回目にすでにあった。それは過去のエントリでも触れていると思う。新潮社を含む数社が相次いで声を掛けてくれた。だが「誘ってくれるのは嬉しいけど、ほんとに実現するのかな? そもそも最後まで書き終えられるかわからんし」と半信半疑、いや過半数疑念みたいな気持ちだった。だからとりあえず断っていた。
 もっとも、オファーだけならノーリスクでできる。書き手が潰れたら「なかったこと」にできるだろうし。先物買いってほんとにあるんだね。
 けど、僕が本格的に「書籍にしたい」と思ったオファーがあった。4月のちょうど真ん中、14日だった。
 そしてそれは新潮社ではなかった。
 何社も声を掛けてくれたなかで、僕が「ここで出してもらえるなら」と思った会社が一社だけあった。他のどんな出版社とも違う特別な一社。声掛けてくれたスタッフも熱かったし、彼らには志があった。僕は本当にここで出したかった。心から。
 ただ、非常にリスキーな話だということはわかっていた。半分以上は「やっぱり無理だろ」と思いながら、スタッフの熱意が通じれば、と祈るような気持ちだった。同時に、書籍化なんて話は忘れよう、と思っていた。期待してかなわなかったら落ち込むだけだし。企画が通るかどうか、音沙汰ない日が続いた。
 この間に「コミック化」の話が突然持ち上がったのは過去エントリに書いた通り。だけどこの●●さんはとてもいい人で、いまでもコミックにするならファーストプライオリティは彼にあると思ってる。もっとも、こんな風になってしまっては火中の栗を拾おうとは思わないだろうけど。
 2週間くらいたった頃だと思う。結局、すごく上の偉い人の判断で企画は没になった、と連絡をもらった。ま、そりゃそうだわな。リスキーだしな。
 とは頭で理解していたが、やっぱり僕はかなり凹んだ。前日に佐々木俊尚さんと会うことができてメチャクチャ舞い上がった反動もあり、鬱状態になった。書籍化?もうどうでもいい。と思いながら、そのままGW休みに入った。


■決めたのは
 GW休みは楽しかったけど、帰ってブログを再開すると相変わらず叩かれるし、心は折れるしでいいことはない。とくにきつかったのはGW休みを「こんな大事なときに休むなんて」というtweetがあったことだ。こんな大事なとき? それってどんなときだよ。休んじゃいけねーのかよ。じゃあどうしろっていうんだよ。休まずに会社行ってブログ更新しろってかよ。外野が勝手なこと言いやがるぜ。と思ったよ。
 また、2ちゃんとかで「最初は面白かったけどもうただの営業の身辺雑記にすぎない」という書き込みが増えたのもこの頃だったと思う。これはとくに堪えたとは思わなかったが、リストラの実況中継も営業の身辺雑記も俺には同じようなもんなんですけど、どう違うっちゅうんですか?とやはり心折れた。あ、やっぱり堪えてたんだな。でも事実、その通りだ。
 書いてる方は何が面白いかなんてわからないし、自分の興味あることしか書けないし、「こういうこと書け」とか言われても書けないし、だったら自分が読みたいものはお前が書けよ、とか思ってた。
「最初から書籍化が前提だろ」という見方には正面から抗いたい。そんなこと無理だよ。まして、何も書いてない状態から書籍化のためにブログ始めるなんて、あり得ないから。
 GW明けの7日、いつものように心折れてしょんぼりしていると、新潮社の、最初に声を掛けてくれた編集者からメールが一本入っていた。どうということはない、直近のエントリに登場する本をめぐるちょっとした話だった。「弊社で書籍化はいかがですか」なんてことは一字も書いてなかった。
 だから逆に、ほろっと来た。
 どうでもいい営業雑記ですが、まだご興味おありですか?という返事を反射的に書いた。「書籍化の検討は5月末から」なんてことは自分の中で吹っ飛んでいた。
 翌週、会った。楽しい連中だった。みな若くて元気だし。
 だけどその後、新潮社は僕にどうしろこうしろ言うことまったくなく、ずーっと僕を放し飼いにしてくれた。だから僕も勝手に、営業身辺雑記を書き続けた。こんなんで本になるのか?と常に思いつつ。僕は僕に書けることを書くことしかできない。リストラなんて目に見えて進展するわけじゃないし、ネタはないしで、僕が好きだった昔話をいくつか書いて間を埋めたりした。昔書いてたメモを援用したり。ほんとにこんなの本になるんかいな?と思いながら、毎晩ひーひー言いながらエントリ書いてた。よく毎晩書いたと思うよ。もう今は書けない。
 たぶん新潮社ではこの間に企画を通したりしてたんだと思う。今でも、よく通ったよな、と思う。もしかして、僕に会ってくれた連中も社内では「あんなの相手にして」と浮きまくってるんじゃないだろうか。
 書籍化することを決めたが、それをブログに書くことは憚られた。一つは次の「ある懸念」で述べる理由。もう一つは、没になった例の一社の件が尾を引いていた。
 5月もどん詰まりになった頃、「コメントを収録させてもらうために、まず不掲載希望の方へその旨表明してもらうのを最優先にしましょう」という提案を受けた。たしかに。できればすべてのコメントを収録して本にしたい、という希望はずーっと昔から僕の中にあった。最初にそれをエントリに書いておけばよかったんだな、と今にして思うけど。差し迫った問題は、望まぬ掲載をしてしまうことだ。それは本意ではない。
 エントリの文案と、媒体向けに流すプレスリリースの文案ができあがったのは、前日の6月1日だった。やっとの思いで最終回のエントリをアップした後だった。
 6月8日のエントリは僕の好きなように書かせてもらった。今回のエントリも僕の判断で書いている。


■ある懸念
 新潮社に「頼みます」と言った後、それでも僕は、始終「書籍化は止めた方がいいかもしれない」と思っていた。
 6月から失業者=求職中になる。雇用保険の失業給付は是が非でもほしい。僕には印税なんかよりこっちのほうが大切だ。額も印税より大きいし。
 5月20日に初めてハローワークへ行ったとき、相談したのはそのことだ。幸い担当者は「在職中に書いた原稿が本になるのは、失業給付の問題になることはない」とはっきり言ってくれた。それを聞いてやっと安心した。もしここで「給付資格を喪失します」と言われたら、新潮社のチームに土下座して「やっぱり止めてください」と頼もうと思っていた。本当にドキドキだった。だから僕のなかで本気で「書籍化するぞ」と決めたのはこの日だといえる。もっと早くハロワに行っておけば良かった、とも思う。ていうかこういう話が持ち上がったらすぐ行けよ、ということか。
 その後も「待期7日間のあいだに本の作業をしてもいいのか」とかを尋ねにハロワに行ったりした。忙しいのにお時間とってしまってすみません、ハロワの担当者さん、一緒に待ってた方々。でも僕の相談は10秒くらいで終わったけど。
 もしかして普通の人は「成功すれば印税のほうが失業給付なんかよりずっと巨額になるんじゃない?」と思うかもしれない。「自分なら失業給付より印税を選ぶ」という人は多いのだろうか。
 僕はまったくそうは思わない。生きていくうえで一番大切なのは、一時の大金ではなく、ちょっとずつ得られるちょっとのお金の連続なのだ。そして毎日仕事があることだ。仕事のない人生は辛い。


■予定は、やはりない
「今後の予定は?」と聞かれることがある。普通の人だったら「本を出します」とか言うのだろうか。僕は、悪いけど、本を出すことなんて予定でもなんでもないと思っている。本を出すことに特別な意味などない、と思っているから。
 本を出せば、それは成功であり、それが仕事になる、と考えている方が多いのだろうか。才能があり、やる気がある人にとってはそうかもしれない。だけど僕はそうじゃない。
 本が売れないこと、新しい本の企画がなかなか成立しないことは、これまでずーっと間近で見てきた。だから今回の話は僥倖だと思う。さらに一方で、書店に押し寄せ書店員さんに負担をかける洪水のような新刊に、こんな一冊を加えていいものか、ともずっと思っている。じゃあ電子書籍は?というと、いつでもブログで読めるものを電子書籍にする意味なんてあるのか?と思う。
 じゃあ止めろよ、と言われるかもしれない。
 でも止めるつもりもない。いったん走り出したものはやはり仕事だ。こんなの僕にとって仕事のうちに入らないけど、多くの人が関わっている仕事であるのも確かだ。やり始めた仕事は最後までやらねば。
 昨日は母の誕生日だったのをすっかり忘れていた。妹が電話してきて「お母さんに電話しろ」と言ってくれた。遅くに田舎の母に電話すると、「私ゃ全然読んどらんのじゃけど、お父さんがブログがおおごとになっとる、と心配しとる。あんた元気ね?」と言われた。すまん心配かけて。
 僕の目標は、両親のように、こつこつ毎日続けられる仕事を得て、ちょっとずつのお金を稼ぐことだ。それができるならなんでもいい。出版業界に残りたいとは考えてないし、本を出すことで名前を売るつもりもない(だから著者名がまったく知らない人の名前になっても、こだわりはない)。
 もしたくさん本が売れても、人生は変わらない。電車男やマ男が今どうしてるか、知ってる人はいるだろうか? 僕にとって、この本を出せるとしたら、いい経験・楽しい経験にはなるとは思う。だけどそれ以上ではない。僕が手にする印税がいくらになるか計算してみてほしい。まだ確定してないが僕のエントリ部分は半分くらいではないか? 会社辞めずに残ってたら同じ額をどれほどの労力と時間で得ただろう。
 僕にとって今意味があるのは、そこに当座やらなきゃいけない仕事がある、ということだけだ。


 そういうわけで、書籍化を決めました。黙っていてすみませんでした。間尺に合わない度はどんどん高まっているけど、止めるつもりはまったくありません。もしよければ、あなたのコメントを収録させていただけませんか? 一緒に本を作りませんか。こういう仕事も、楽しいもんです(継続性はないけれど)。


【付記】
 本が出てもブログを閉鎖するつもりはありません。コメント欄凍結もしないし。
 また、収録するコメントを僕が選ばないのは、僕が選んだのではバイアスがかかるからという判断で編集部に委ねています。自分にとって都合の良いコメントばかりになるのは嫌なので。

【付記2】(6/10 06:30)
・LL さん、本は横組みです。
・言い忘れていました。「こんなの仕事じゃない」と思うのは僕の勝手ですが、人に「予定はありません」と言い続けたのはやはり常識がありませんでした。本当に申し訳ありませんでした。


【付記3】(6/11 07:04)
このエントリに「たぬきち」名でつけたコメントは、僕です。