宇多丸が「見ろ」と言うので「母なる証明」を見てきたよ
先週土曜の「ウィークエンドシャッフル」で宇多丸が「黙ってこの映画を見ろ」とまで言うので、ポン・ジュノ監督作品「母なる証明」を見てきた。東武デパートメトロポリタンの上の方のシネ・リーブル池袋。日曜の午前中の回は二十人ちょいの客で、はっきり言って空いてました。スクリーンめちゃ狭い劇場だけどね。
冒頭、枯れ草の原っぱを歩いてきたおばさん(キム・ヘジャ演じる主人公)が映画音楽に合わせて一人でダンスを踊る。いきなりのメタ的展開に驚く。なんなのなんなの?という驚きのまま、ドラマは本編に突入する。
漢方薬店で下働きをする母(キム・ヘジャ)は、押し切りで薬草を切りながら表を見る。表には息子のトジュン(ウォンビン)がいる。どうも彼は頭が弱いみたいだ。犬をかまいながら母に向かっておどけて見せる。やや苛つく画面に、いきなり車が走り込んできてトジュンを轢く。衝撃!
ポン・ジュノは「殺人の追憶」で僕の心を鷲づかみにした人だ。僕はあの映画を見て「狭山事件というのは、あんなふうなところで起きたのかもしれない」と強く思った。日本の60年代に起きた謎の猟奇事件(真犯人は捕まっていない)と、80年代のソウル郊外を震撼させた猟奇連続殺人事件(真犯人は捕まっていない)の類似はいろいろあるけど、ぬかるむ道や暗い切り通しとかが感覚的に迫ってくる画面が最高に良かった。言葉は違っても観る者をぐいぐい引きつけて離さないんだよね。
今回はちょっと違う感覚だった(「殺人の追憶」は男ばかりだったけど、今度は主人公が女性だからか?)けど、強引な巻き込み感覚は一緒でした。知恵遅れの息子が女子高生殺しの容疑者として捕まってから、お母さんは怒濤の犯人捜しを始める。感情を何度も揺さぶられ、ジェットコースターのように上げたり下げたりされ、激しい暴力シーンで心拍を上げられ、もう自分がサンドバッグになったような気がする頃、物語はものすごい展開を迎える。
この映画では(宇多丸師匠も指摘してたけど)お母さんは基本、黙々と犯人捜しをする。黙々は堅い意志を表す。何者にも揺らがせられない意志。しかし、映画のなかでお母さんは三度だけ、大きな声を出す。それは、堅い意志をも揺るがせられる瞬間だ。ここが展開点なので、これから見る人は注意するように。
もうものすごい展開に驚きました。終わったときは「なんじゃこれは」という衝撃と、いたたまれなさで打ちのめされました。「殺人の追憶」は真犯人が明かされないという結末に非難囂々でしたが、「母なる証明」は真犯人が明かされるのに「こんな結末知りたくなかった」と思わせる凄さがあります。ネタバレしちゃったかな?
打ちのめされたい人、オススメです。ってもう始まって1カ月もたつ作品なんですね。ロングランおめでとう。