新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

「文徒」読者の方ヘ

単行本『その後のリストラなう』の版元・株式会社出版人では、会員向けにメールマガジン「文徒」を発行している。限定された会員向けだが、1カ月遅れで一般にも公開されている。なので、こちらを読んでいる方もいらっしゃるだろう。


今朝配信分の「文徒」で、『その後のリストラなう』が書店に搬入になった、と一報があった。今日のエントリは、そのリンクを押してお見えの方に向けて書きました。

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 『その後のリストラなう』の連載元である月刊誌「出版人・広告人」。同誌は、メルマガ「文徒」と同じく限定された会員読者にのみ向けて出されている。「文徒」が1カ月後に一般公開されるのと違って「出版人・広告人」は一般公開されることはない(国立国会図書館に納本されているかもしれないが)。

会員=読者の皆さんは、出版社か広告代理店の管理職ないし経営者の方々だ。「出版人・広告人」が創刊された頃は僕と同世代の経営者の方はあまり見かけなかったと思うが、最近は同世代(僕は1965生まれです)ないしもっと若い世代の方も役員になっておられる。月日は速く流れるね、と感心する。

 つまり、「出版人・広告人」の読者は一般人ではない。玄人、ブロ中のプロだ。

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前にも言ったが、「自分のことしか書くまい」と決めたし、僕には、玄人向けのことは書けない。

だけど、一つだけ僕が玄人の皆さんより先行していることがある。

それは、「僕は皆さんより先に隠退している」ということだ。

「出版人・広告人」の購読者は、100%、現役の働きマンだ。いや僕のように謹呈で読ませてもらっている隠退マンも何人もいるけど、それは例外なので除く。

現役バリバリの働きマンに対して僕が一点だけ優越しているのは、「今バリバリやれてても、辞めたらこうなるからね?」ということを身を以て知っている、ということだ。

だから僕は連載原稿を書く時、いつも「現役の皆さん、辞めたらこんな感じですよ。だから現役である一分一秒を大事にしてください」という気持ちを込めていた。

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現役で働いている人は、多くが〝現役であることの幸せ〟に気づいていない。

自分がバリバリやれているのは自分の力量なんだ、と思っている人が多い。けど実際は〝仕事があるからバリバリやれている〟〝地位があるから潑剌としている〟という、一見トートロジーのような、そんな身も蓋もないことが事実だ。

勿論なかには地位や仕事を失っても裸一貫でバリバリやれる人はいる。それは認めます。でも、現役の間には全員が無根拠にそう思っている。思えてしまう。

仕事があって、毎朝行く場所があって、一緒に働く同僚がいて、一定時間を拘束される。それがいかに幸せなことか。それは辞めるまでは絶対に理解できない。

仕事は、会社は、その個人の実力・魅力・活力を、本当の何倍もの大きさに増幅する装置なのだ。(出版社で働いてる人は意外に気づいていないのだが、書き手は多くが個人事業主=一人で働いてる人、だ。ものすごい非対称性がそこにはある)

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会社を円満に退職すると、退職金が手に入る(まあ大概は)。だけど、退職金運用一つとっても、肝心な情報は誰も言わない。

たとえば運用に際して、「何を買うか」「どう買うか」「どこで買うか」といったことを事細かに指南する本は多い。山ほどある。だけど、「いつ売るか」を教えてくれる本はありますか? そういうこと教えてくれる人、いますか?

僕が大きく躓いたのも「いつ売るか」だった。これ、とても難しい。

「いや、俺ならできる。会社でも成功したんだし、利殖でも成功できる」と思ってる方、いらっしゃるでしょうね。大勢。がんばってください。ロバート・キヨサキとかジム・ロジャーズとかウォーレン・バフェットとか山本一郎を目指して。

    

でも、ほんとのこと老婆心で言うと、そういう〝上〟ばかり見るんじゃなくて、たぬきちのような〝下〟を直視して、「ああはなるまいぞ」と褌の紐を締め直す方がいいと思うんです。

うーむ、ここに並べるとものすごく見劣りというか異物感があるのだが、書いた側の気持ちとしては上の綺羅星のような皆さんと同じです。

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僕は現役時、とても〝成功した出版人〟ではなかった。けれど、成功した(と言っていいと思う)会社の一隅に居ることができて、その空気を呼吸できた。

以前のブログ「リストラなう日記」が面白かったとしたら、それは〝大手出版社凋落の現場〟を赤裸々に書いたこと、よりも、〝大手出版社の空気〟を伝えることができたからだ。それが「リストラなう」のキラーコンテンツだった。

仕事、それも〝出版人・広告人〟という仕事は、魅力的でパワフルだ。今は色々しんどくなったと思うけど、それでも本質は変わっていない。そこで働く人をエンパワメントする魅力に溢れている。神保町歩くとそう思うよ(音羽はもう何年も歩いてないな〜)。

だからこそ、そこから離れることは辛い。

あなたたちにも、いつか、その辛い日が訪れます。そのことを想像しながら、毎日バリバリ働いてください。