新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

歯に衣着せぬ藻谷浩介『観光立国の正体』、面白かった

『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く」の藻谷浩介の最新刊、面白かった。
ただし本書は藻谷がホスト、共著者がゲストの本で、ゲストはツェルマットで観光のカリスマと呼ばれたらしい山田桂一郎という人。
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目次を列挙すると、

1 観光立国のあるべき姿 山田桂一郎
第1章 ロールモデルとしての観光立国スイス
第2章 地域全体の価値向上を目指せ
第3章 観光地を再生する──弟子屈町飛騨市古川、富山県の実例から
第4章 観光地再生の処方箋

2 「観光立国」の裏側 藻谷浩介×山田桂一郎
第5章 エゴと利害が地域をダメにする
第6章 「本当の金持ち」は日本に来られない

前半は山田さんの執筆なのかな。後半は藻谷と山田の対談。
興味深い小見出しを抜粋すると、

寂れた観光地に君臨する「頭の硬いエライ人」/「観光でまちおこし」の勘違い/「時間消費」を促すことが「地域内消費額」をアップさせる/「新幹線効果」の誤解/富裕層を取りはぐれている日本/「地域ゾンビ」の跋扈/「改革派」にも要注意/ボランティアガイドは「ストーカー」と一緒/世界一の酒がたったの五〇〇〇円/「アラブの大富豪」が来られるか/近鉄JR東海という「問題企業」/「熱海」という反面教師/大河ドラマに出たって効果なし!/頑張っても大変な佐世保/「おもてなし」は日本人の都合の押しつけである

などなど。
後半が悪口言いたい放題で、ほんとに面白い。実名挙げてる。熱海とかは有名だけど、こないだサミットやった志摩観光ホテルとかも手加減せず云ってる。佐世保では「佐世保バーガーとか手がけた遣り手の人がいたのだけど、結婚して東京に行ってしまったので以後きびしい」などと個人名特定できちゃうぞなことまで云ってる。いいのか。
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僕も観光大好きなのでこの本読んでいろいろ思ったのだけど、「ほとんどの田舎の観光地が『安かろう、多かろう』で物を売るので、大金持ちを連れていける店がない」という指摘。日本一になった日本酒が上代五千円しか取らない、ということとか。ロマネコンティみたいな値付けの商品が必要なんだよ、ということ。
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僕の好きな宮古島(と言いつつほんとは伊良部島が好き)も段々と開発が進んできたのだが、宿は富裕層向けと貧乏な若者の泊まるゲストハウスとかきちんと別れてるけど、食事がね。なかなか。安くて大盛りの店はたくさんあるんだけど、一食に3万円とか使って平気な金持ちだと行く店ないと思うよ。
僕はもちろんそんな贅沢はできないけど、そろそろ年取ってきて大盛りは苦手になってきたわけよ。それより毎食野菜をいくらか摂りたいんだけど、島は野菜が少なくてね…。
それと、本書が繰り返し云ってる、「名所旧跡は面白くない」というのは慧眼だと思う。
自分のこと考えても、宮古島に20回以上行っても、東平安名崎は最初に2回、友だちと1回くらいしか行ってない。それより平良の裏道を散歩したり、御嶽を訪ねたり、狩俣の誰も来ないビーチで昼寝する方がいい。
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用事があって世田谷の豪徳寺近辺に行ったわけよ。豪徳寺商店街と山下の駅近辺はごちゃごちゃしてて、歩くのには良いけど、クルマだと通り抜けるのも一苦労、自転車でもしばしば停止しないといけない。前近代的な街。
だけど、ここに英語圏のオジサンオバサンおねえさんの団体がいて、楽しそうにいろんなものの写真撮ってたわけ。郵便局の赤いカブの写真とか嬉しそうに撮ってる。
ああ、猫の豪徳寺に来たのかな、ここから隣の梅丘までは歩けるし、そしたら美登里寿司もあるしねえ、なんて思ったのだが、彼らは、狭隘で混み合った山下の通りがほんとに楽しそうで、それは羨ましいほどだった。
観光というのは、名所よりも、現地の人が普通に暮らしている場所、それが自分の故国と違ってたりするともう最高なのだね。この本では「異日常」と云っている。
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僕が大嫌いなのは、NHKラジオのお昼の番組「旅するラジオ 旅ラジ!」。
イベントカーがあちこちの自治体を廻って、その町の町おこしを地元民に紹介させる番組なのだが、ほんと聴いてて辛い。出る人たち、言わされてる感満載。一人一人は真面目だし、一所懸命だし、がんばってるんだけど、全体として見ると金太郎飴のようにテイストが同じ。地方の商店街の優等生を集めました、その弁論大会、みたいな。
僕の好きな観光は、特産品バーガーとか町おこしイベントじゃない。商店街の隅でやってる怪しいバー(全共闘崩れのマスターだったり、最近東京から流れてきた屈折青年がやってるような)とか、ヌードスタジオとか、あるいは碁会所とか、そういうのを見つけられるとすごく楽しいのだ。幸いそういうのは、「旅ラジ!」には決して出ない。僕が見つけるまでそっとしておいてくれる、粋な計らいなのだろう。
藻谷の本は、そういう感覚まで掬いとる度量があったと思う。