新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

NHKの台湾イメージ、ネット世論の台湾イメージ

 NHKが鳴り物入りで流し始めた大型ドキュメンタリー番組、その第1回がえらく不評だ。今日発売の「週刊新潮」にも4ページで出てるし、ブログでもこんな感じで取り上げられている。
証言の「断片」のみ放映―台湾の被取材者が怒る反日番組「NHKスペシャル/シリーズ・JAPANデビュー」
http://d.hatena.ne.jp/SRTK/20090414/name
本日発売週刊新潮にNHK台湾報道批判 | 草莽の記 杉田謙一 - 楽天ブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/yamanoha/diary/200904150015/
 NHKはなんというか、自分に理解できる範囲でしか番組を作れてないのかもしれない。「台湾語」とすべき部分を「中国語」と表現するなんて、たぶんNHKの辞書には「台湾語」がないんだろうな。そして「戦前の植民地」というと「侵略」しか連想できないのかもしれない。
 でもネット世論では逆で、台湾は中国とは別の国家で、世界でも稀な親日家の多い国で、北京語・台湾語客家語・日本語など複雑な言語環境であることなど、まあわりと認識されている。NHKの台湾イメージは単純化がすぎるってことが、容易に感じとれる識字力を今ではみんな持っている。
 だから蔡焜燦『台湾人と日本精神』なども参考文献として名前が挙がってくる。僕はこの本は、エキセントリックな親日家のおとうさんが書いたものであって、これが台湾人の平均的な考え方だと思うとそれもまた大間違いだと思うのだが、言葉というのは極端から極端に振れることは多くても、ほどほどのところでバランスすることがなかなかない。もしやこれからネット世論ではまたぞろ李登輝や蔡焜燦や黄文雄が勃興してくるのかな。


 台湾が好きなので1年に1回くらい遊びに行く。台南の裏路地を散歩して迷ったりすると、日本語世代のおじいさんが親切に道を教えてくれた。古めかしい日本語だし、背筋のぴんとした方だったので、こっちもつい深々とお辞儀してお礼を言ったりする。たったこんだけのやりとりでも、いろんなアンビバレントなものを感じる。日本語やもろもろの日本的なものに対して、愛憎入り交じった感情があるに決まっている。それは植民地支配に対して謝罪してほしいという感情とは違うだろうし、手放しの日本好きとも違う。日本的なものを体内に持ちながら、北京語を覚え、外来国家のもとで暮らし、長い年月かかってやっと自由を得たおじいさんの人生は、そりゃもう複雑に決まっている。NHKの一面的な理解ではおよびもつかないだろうし、反対に蔡焜燦さんを引き合いに出すのも間違いだと思うのだ。


 リアルな台湾人のイメージを感じ取れる本、ということではこの本が面白かったです。自費出版みたいですけど。この本には、NHKの好きな贖罪史観も、ネット世論の好きな親日国家観も、あまり出てきません。出てくるのは、日本のことをとても気にしてくれている、だけど一番優先なのは台湾だよねっていう自然体の台湾人たちです。
 台湾の人たちが日本のことを気にしてくれてるのは、やはり世界一だと思います。彼らの思いを大事にするならば、NHK的な台湾認識ではむろんダメだし、かといって李登輝×小林よしのりみたいな論法でもダメだと思います。どっちの側に立っても、反対側は見えなくなるから。
 NHKの番組でもっともコメントを多く使われていた日本語世代のおとうさん徳三さん、あの方の豊かな表現力や、柔らかな物腰、柔和な表情、それでいて情熱的で若々しい語り口などをよく見れば、この人はけっしてNHK的な贖罪史観を言いつのる人ではない、ということがわかるはずです。もうそのくらいのことは一般視聴者でもわかるようになったと思います。