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新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

ブライトさんとミライさん

 僕の顧客に、神戸の販売店さんがいる。その一軒に「機動戦士ガンダム」のブライトさん(ホワイトベースの艦長)とミライさん(ホワイトベースの航海士)に似た人たちがいた。
 しつこくアフィリ貼ります。
 アニメの話をすると、ホワイトベースの面々は緊急避難として軍艦に乗り合わせた子供達である。ブライトさんは士官候補生だけどもちろん未経験で、ミライさんに至っては小さい宇宙船の免許を持ってるというだけの民間人だった。それで人手不足の軍艦を切り盛りすることになって、彼ら二人はホワイトベースになくてはならない人たちとなったわけだ。
 僕のお客さんの話をすると、この二人にそっくりな彼らはとある小売店で忙しい売り場を切り盛りし、要求水準の高いお客さんをびしばし接客し、他品種少量の商品をピンポイントで仕入れるというたいへんな仕事をこなしていた。彼らがいるお店になら安心して品物を卸すことができた。
 この春、彼らの会社が遠くに支店を出すことになった。すごく遠くだ。飛行機で行かねばならないほど遠い町である。そこに、ブライトさんが口開けスタッフとして赴任することになった。僕ら同業他社の営業マンは会社の垣根を超えて「残念だ。淋しくなるね」と言い合った。それほどブライトさんは僕ら業者にも人望があった。もちろん神戸の同業他社さんにも人望があった。ブライトさんの不在は僕らの気持ちになんとなく空隙をもたらした。
 そして先月、風の噂に、ミライさんが店を辞めるという話が聞こえてきた。え?ブライトさんがいなくなっただけじゃなくてミライさんもいなくなるの? 僕ら営業マン連合は東京にいながら一様にショックを感じていた。
 そしてさらにしばらくして、ミライさんは会社を辞めてブライトさんのもとに駆けつけて、ゆくゆく二人は結婚するという話が聞こえてきた。おお、まるでアニメの続きのようなハッピーエンドだ!僕たちは嬉しくなった。
 その後、ミライさん本人に話を聞いたりして全体像がおぼろげながら見えてきた。ブライトさんはアニメと違ってぼんぼん育ちじゃなくてかなりの苦労人で、天涯孤独で暮らしてきた時期が長いんだと。僕も長いこと独身を続けてきたのでわかるんだけど、独り身の男は日常生活に変な癖がつくんだよね。あるいは偏屈で奇妙な歪みが癖になるというか。それは、誰か非常に気の許せる他者がそばにいて正してくれるしか矯正することはできない。矯正せずに年を取ると、それが原因で健康を害したり対人関係に問題が起きるような、けっこう致命的な歪み。そんなのに思い至る人はいませんか? 男性は案外こういうトータルバランスをとるのが苦手な人が多いので、うまくやってるようで下手を打つ人も大勢います。僕は何度かブライトさんたちと飲んだときに、彼の偏屈さとかちょっとアルコール依存症気味なとことかが、とても他人に思えなくて気になっていたのだった。
 
 絲山秋子の長編『ばかもの』には、すさまじいアルコール依存症の描写が出てくる。気がついたら地獄の底にいる、といった感じのこの病気の凄さはなかなか書き表すことができないのだけど、本書はとてもうまく書いているのでご一読いただけるとありがたいです。僕は十年ほど前にアルコール依存症気味になり、ついには鬱病を発症しとても苦労した。だから他のアルコール依存症気味の人のことをとても放って見ることができない。
 ミライさんもブライトさんの生活の荒廃ぶりには気づいているらしかった。だから二人の門出は祝福したいけれど、遠からずかなりの苦難にぶち当たるだろうと思える。それでも未来に向かって進んでいこうとする二人を、僕はまぶしく見つめることしかできない。
 ミライさん、辛かったり寂しかったりしたら、いつでも帰っておいで。ブライトさんのことは後から回収すればいいんだから。楽しいことだけを二人でシェアすればいい。辛いことははしょっていいから。ブライトさんは早いとこお酒を止めることができるといいね。少なくとも週に二日くらい休肝日をもうけて、それで寂しくないくらいアルコールから自立できるといいね。誰にも伝わらないと思うけど、僕はここに書くことでこっそり祝辞の代わりにします。ではでは。