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新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

TPP参加するの?

 締め切りが迫ってきて、野田総理はTPPへの交渉の席に着こうとしてるらしい。交渉のテーブルに着くということは、TPPに参画するのが前提で、よほどのことがない限り「やっぱ参加は見送ります」とはならないようだ。日本は参加しちゃうのか?

 TPPの理念通り、関税や保護を撤廃してしまうとどうなるのか。
 どうやらTPPを推進したい側の目論見は農業や工業なんかにはなくて、金融の完全自由化が目標らしい。今もかなり日本の金融は荒っぽくなったけど、今以上にやらずぶったくりで、三菱や住友などの民族資本が外国資本に食い荒らされ、小さな信用金庫が買いまくられ、お年寄りの預金が海外へ吸い上げられていくんだろうな、きっと。
 農業は、グローバルな産品がドッと入ってきて、国産のちょっと高価で高品質な産品は淘汰されていくのだろう。

 こないだ行った宮古島には、公設市場や農協以外に、イオンのマックスバリュがある。2軒あって、どちらも内地と同じ産品をほとんど内地と同じ安価で提供している。魚や豆腐は地元の商品、なまり節や海ぶどう、もずく、島豆腐、宮古かまぼこなどが置いてあるけど、野菜に関していえば地元の産品は見かけなかった。関東のマックスバリュと同じようなものが、同じような値段で置かれている。タマネギ3個99円、とか。産地は九州だったり関東だったりいろいろだ。
 宮古島には面白い野菜がいっぱいある。巨大な冬瓜、これから旬のカボチャ、紫色のパルダマ(水前寺菜)、青パパイヤ、ウリズンマメ(四角マメ)、オオタニワタリの芽、宮古ゼンマイ(内地のものと違ってほとんど灰汁がなく美味い)、紅芋(芋類は検疫の関係で内地に持ち込めない)、島ラッキョウなどなど。フルーツは、マンゴーは季節が終わっていたけれど、大好きなグアバ、珍味アテモヤ、派手なドラゴンフルーツ、酸っぱくないパッションフルーツ、輸入品と比べるとバカ高いけど美味いパイナップルなどなど。
 でもこれらはマックスバリュでは売っていない。買うときは農協か、地元資本のスーパー、サンエーやかねひでに行く。あるいはもっと小さいスーパーなかそね、まるきスーパー、下地スーパー、狩俣購買などへ行くと農協よりちょっと高いけど地元の生産者が直接納めたみたいな新鮮な野菜が置いてある。
 イオンはこれら地元産品を置かない。イオンは日本国内のグローバル企業だから、強力な物流機構で全国の安いものを買い付けて全国の店舗に置く。規模が大きいので競争力も高い。その代わり、地元とは何の関係もない産品ばかりになる。イオンだけで買い物してたら、宮古島の伝統的な料理は作れない。

 TPPが発効すると、これがもっと極端になるんだろうな。スーパーへ行くと、信じられないような安い値段の大陸産野菜が溢れかえるんだろう。下仁田ねぎや深谷のブロッコリは見かけなくなり、ウイグル自治区の大根や山東の白菜とかばかりになるんだろう。イチゴも、世界で一番美味しい日本のイチゴは高価なためスーパーには並ばなくなり、生産技術を移転して作られた中国のイチゴがスーパーを席巻することだろう。
 それらはきっと、ものすごく安くて、そして品質はほとんど日本産と同じ。いや厳密にはちょっと違うかもしれない。ちょっとだけ傷みやすかったり(たとえば、良い小ネギは傷みにくいんです)、風味が劣っていたり(安い大根はぱさついてて、おろしても煮てもイマイチだよね)、ややスカスカだったり(青森のニンニクは綺麗な透明で、実がみっちり大きくて重いけど、中国産ニンニクは軽くてややスカッてる)するんだ、きっと。
 世界で最高に美味しい日本産の野菜は高価で、もう大金持ちがお取り寄せでしか食べない、なんてふうになるかも。
 いや、それが続くのもわずかの間で、富裕層だって高価なブランド野菜ばかりは食べないだろう、イオンだけじゃなくピーコックや紀ノ国屋もきっと外国野菜を置くようになる。高くて美味しい野菜を作っている農家は段々と追い詰められ、一軒二軒と仕事をやめていくだろう。
 原子力潜水艦の防水ハッチを作れる会社はアメリカに一軒しかなかったんだけど、米海軍が原潜の新規建造をちょっと凍結したら、世界に一軒だけだったそのトップ企業も潰れてしまったそうだ。そんなふうに、世界最高のマエストロも、兵糧攻めには勝てない。
 悪貨が良貨を駆逐していく。世界中の人々が、“すごく安い”けど“ちょっと美味しくない”食べ物に甘んじなければならなくなる。
 それまで食うや食わずだったなら、少々不味くても食べ物が手に入るようになるのは良いことだ。ジンバブエの人が安定した物価で比較的安全な食品を手に入れられるようになるなら素晴らしいですよ。けど、日本はそうじゃないでしょ。農家にこれ以上の価格競争をさせてどうしようっての?

 ふだん都会でしか暮らしていないと、「非効率な産業は切り捨てて、生産性を上げて世界と互角に戦える産業に注力しないと」なんてことを考えてしまう。けど、日本は都会ばかりじゃない。全国至るところに田舎があり、簡単には生産性が上がらない産業に多くの人が従事している。地方では、最大の雇用主は国と自治体(公務員)だし、主要産業は公共事業(土建業)と農業なのだ、いまだに。
 日本は、シンガポールのように小さくて生産性を極大化できる国ではなく、どっちかと言うと世界的には人口・国土でも堂々たる大国だ。アメリカのように国内に第三世界を抱えていると言ってもあながち間違いじゃない。
 宮古島のオバアからサトウキビ仕事を取り上げてはいけないと思う。サトウキビは保護された産業の代表だ。衰退産業でもある。今や全盛期の半分、1972年沖縄復帰頃のレベルまで生産は落ち込んでるとの見方も。だけどサトウキビは沖縄の文化や社会の中で複雑なエコシステムを形成している。外国から安い砂糖が入ってくるのでもう買いません、としちゃっていいのだろうか。

 TPPって、僕らは幸せになるんだろうか。僕にはよくわからない。
 僕は普段、近所の八百屋で都下産や北関東産の野菜を買って食べている。旅行に行くと現地のものを食べたり、お土産に持って帰るのが好きだ。道の駅の野菜売り場とか楽しいよね。これらが昨日までと変わらず美味しく食べられるならいいんだけど…。