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新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

遅まきながら良い本を読んだ『ジェノサイドの丘』(上・下)

 柳下毅一郎は大好きな翻訳家だ。その彼が、だいぶ前に訳して出した本を今更読んだ。八重洲ブックセンターの4階(人文社会売り場)で「いまアフリカを知る」みたいな平台があったのでつい買ってしまったのだ。いやー、良かった。
  
 フィッリップ・ゴーレイヴィッチ『ジェノサイドの丘』。原題は「明日私たちが家族と共に殺されることをあなたに知らせたいと思います」。これは、虐殺されそうなツチ族フツ族の偉い牧師に送った手紙の文面だという。それに対する返答は、「おまえたちは消えねばならない。主はおまえたちを求めてはおられない」だったという。
 この一見わかりにくい題名が、こんな邦題になったのは良いことだ。邦題も十分奥深い。「丘」というのはルワンダの国そのものを指すのだということが、読み進むにつれわかってくる。ルワンダ人は自国を「千の丘の国」と呼ぶんだそうな。ロマンチックだね。
 ルワンダはアフリカ中央部の高原地帯にある小国で、面積は九州の半分というか長野県の2倍くらいらしい。そこに900〜1000万人が住んでいる(虐殺と内戦で人口は激しく移動したが、だいたいこの規模らしい)。けっこう人口過密だ。そして「丘」という通り急峻地が多くて大規模農業には向かないようだ。
 アフィリエイトのコラムに表紙画像が見えるかな? 上下巻になってしまったのは残念だけど、よく考えられた表紙イラストだ。上巻は虐殺直後の死体が散乱する丘で、狼だか野犬が死体にたかっている図。これ象徴的な図柄ではなくほんとにそうだったらしい。だから虐殺直後のルワンダではほとんどの犬が死体を食っていたので犬が忌み嫌われたんだと。犬を殺しまくったらしい。犬はいい迷惑だ。
 下巻の図柄はまた意味深だ。これは、虐殺からずいぶん経っても人々の苦悩がなくならないことを示している。下巻は1994年の虐殺から離れて、その後のRPF(ルワンダ愛国戦線)による政権奪取と内戦、隣国にできた難民キャンプとの戦いから隣の大国ザイールがなくなる大動乱にまで発展した顛末が描かれる。じつにふさわしい図だ。


 ルワンダがどんな国かはwikipediaなどを参照してください。また、映画「ホテル・ルワンダ」について述べたサイトはいっぱいあるから、あの虐殺の顛末についても容易に情報収集できるでしょう。
 しかしwebになくて本書にしか載ってない情報はけっこうあります。たとえば、ツチ族フツ族の民族対立がどのように醸成され、それがどんなタイミングで虐殺に至ったか。実は94年以前にも何度も虐殺は起きており、そのつど「何年の虐殺を逃れて国外に出た世代」とか「何年に父を失った世代」といった悲しい思い出を背負ってツチ族は暮らしてきたんだと。そしてフツ族ツチ族に関しては、元は同じ民族で農耕民か遊牧民かの違いでしかなかったのを、ヨーロッパ人が「聡明で優れたツチ族」という偏見を植え付け、意図的に分断し支配してきた来歴があるんだと。これは知らなかったなー。モンティパイソンのギャグ「今日の考古学」の中に「世界で一番背が高い民族はワトゥティ!」というのがあったけど、あれツチ族のことだからね。もっと確固とした民族なんだと思ってたけど、違うとは。
 フツ族の独裁者ハビャリマナ大統領が搭乗した飛行機が首都キガリの空港近くで撃墜されたことから、虐殺は始まった。大統領夫人がフィリピンのイメルダ夫人みたいに後宮的な権力を握っており、彼女の一党が設立した民間ラジオ「千の丘自由放送」(RTLM)が民族対立を煽り、殺せとは言わなかったものの虐殺を示唆した。この模様を検証したNHKスペシャルYoutubeにあったので貼っておきます。ルワンダの田舎の様子とかもわかるのでとても興味深いです。
 
(※全部で5つに分かれているけど4番目のファイルがエラーになってるみたい)


 本書では虐殺そのものの様子は分量的には多くない。柳下訳だからグロシーン満載かと思ったら、じつに手堅いアフリカ現代史のルポだった。著者は虐殺そのものよりも、虐殺までにルワンダ国内にどんな状況が醸成されていったか、虐殺直後からの状況の変化、そして1年後に自分が現地入りしてからの生存者や証言者へのインタビューと、こつこつと積み上げていく。センセーショナリズムに訴えるとこは非常に少ない。うーむ少し不満だ。
 そして事態はいよいよ大きくなっていく。虐殺された側のツチ族勢力が国外から愛国戦線として進軍してくる。ついに政権奪取、フツ族の虐殺集団(ジェノシダレ、と呼ぶ)は隣国ザイールやブルンジとの国境地帯にできた難民キャンプへと逃亡。難民キャンプは虐殺者たちの隠れ家となり、なんと国際社会はそこに大量の援助をするんですね。1日100万ドルとか。もちろんそこには一般の難民もいるわけですが、武装した虐殺者たちはキャンプの闇経済を仕切り、一般人を人間の盾として使い、国際援助で私腹を肥やしたり再武装したりする。当時の国連難民高等弁務官緒方貞子。国際援助はもちろん彼女の指導でもありました。
 本書は、ふだん目を向けないアフリカについて、断片的ではあるけど、強烈にいろいろ教えてくれる。たとえば、フランスが実は不良というかとんでもない国であるとか。現大統領のサルコジが息子を重用したりして「お前は石原慎太郎か」と突っ込みたくなるトンデモなさだが、その前のシラクは核実験強行したっけ。で、その前のミッテランは、なんとルワンダに武力介入して愛国戦線じゃなくて旧政府側について虐殺集団と共闘したんだよ。外から見たんじゃどっちが虐殺してるのかわかりにくかったのかもしれないけど、それはあんまりでないかい? ていうかフランスってトンデモない国なのかもやはり(虐殺や内戦を停めることより、フランス語圏勢力を守ることしか頭になかったらしい)。
 そして下巻ではルワンダ一国の話じゃなくて、ザイールのモブツ政権がぐらぐら揺れてついになくなるという、アフリカ三国志みたいなスペクタクルに発展します。
 前半の主人公は、映画「ホテル・ルワンダ」の主人公でもあるポール・ルセサバギナさん。映画化されたエピソードがそっくり出てくる。
 後半、下巻の主役は、現大統領で当時は副大統領・国軍司令官だったポール・カガメ将軍。本書の主人公は2人のポールなのだ。著者はカガメにかなり密着取材したようで、思い入れもたっぷりだ。政治的にも中立ではなく、愛国戦線側に肩入れしている。ザイールが民主コンゴ共和国になった一件ではカガメと彼の軍隊が実行部隊であって、中央アフリカ動乱の黒幕だったといえる。最近ではアルカイダともつながりがあるそうで、だからカガメのことを「テロリスト」と呼ぶ向きもある。(天皇陛下がテロリストと会談された件について
 しかし虐殺の一件にフォーカスして見れば、カガメ以外の誰に希望を見いだせばよいのか、とも思う。だが、このすごいブログ(黒猫の巣)の「世界の香ばしき国々」というシリーズ記事を読むと、アフリカや南米の希望の星と言われた人たちが、誰も彼もひどいありさまになり果てていくのがわかって、激しく諸行無常を感じる。まったく、国際社会は間違った援助や介入しかしないし、当事者たちはメチャクチャだし、リアル三国志って見ていて辛いよ。
 そんなわけで、最初はグロなものが見れるかな?という不純な動機で読み始めた本書でありますが、最後はアフリカ三国志になってしまって驚きました。ていうか、この本読んで、「黒猫の巣」を読んだら、石原慎太郎都知事閣下が、まぎれもなく世界レベルの田舎独裁者に見えてきました。あの人は、世界のどこに出しても恥ずかしくないと。