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新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」がえらく面白い件について

 僕は土曜の夜はラジオを聞くことが少ないので、主にPodcastで聞いてるのですが、宇多丸さんの番組はめちゃくちゃ面白いですね。いまさらですが。
 このところの白眉といえば、「呪怨-白い老女」の監督・三宅隆太にホラー映画の構造を作り手側から語らせた「真夏の現代ホラー映画講座」(前編)「真夏の現代ホラー映画講座」(後編)だった。これはほんと、「ヒトは何をどういうときに怖く感じるのか」という、人類学的・心理学的な深さを持った映画論になっていた。映画ってもともとヒトの心を操作するメディアであり、映画原理主義者が「映画館で見なきゃダメ」としつこく言いつのるのは、暗くて閉鎖された環境の映画館が生物としてのヒトに及ぼす影響下でないと映画の効果が最大にならない、ということを言っているわけだ。だから僕はべつに映画なんて映画館で見なくてもいいよ、と思ってはいるのだけど、自分が10代や20代で映画館に通っていた頃の記憶はとても良い思い出ばかりなので、若い人にはやはり勧めたい。


 それはさておき、三宅隆太監督は映画人としてかなりくせがあってさらにポテンシャルも高くしゃべりも面白いという才人だ。その彼を招いて行った宇多丸のサタデーナイトラボ
「シリーズ"エンドロールに出ない仕事人"第1弾〜スクリプト・ドクターというお仕事〜」(前編)
「シリーズ"エンドロールに出ない仕事人"第1弾〜スクリプト・ドクターというお仕事〜」(中編)
「シリーズ"エンドロールに出ない仕事人"第1弾〜スクリプト・ドクターというお仕事〜」(後編)
がまた凄かった。これは、失敗作になりそうな映画脚本をカウンセリングするスクリプトドクターという仕事(もちろん三宅監督もこの職人である)とは何かを語らせている回なのだけど、これが人類学的なコミュニケーション論にまで深まっていて、放送から何週間も経って日曜の車の中でPodcast聞いてた僕は戦いたのだった。
 たとえば三宅監督は言う。「映画はヒトの心を操作するおそるべきメディアだ」と。たとえば「日本海で漁船に乗って、とれたてで新鮮なカニのレポートをする松岡修造。ふつう我々は彼に感情移入しますよね。だけど、この映像の前に、日本海の海底で家庭生活を営むカニの映像を流していたら、僕たちはカニに感情移入してしまいます。すると、松岡修造がとれたてのカニをはふはふ言っていただくシーンが、打って変わっておそろしいおぞましいシーンに変貌するんです」(意訳)と。たしかに! われわれの心理はこんな簡単なことで操作されてしまうわけだ。
 イラクでいま起きている住民の無差別虐殺、これは米兵がイラク人に感情移入していないから可能なことだ(完全に感情移入せずにすむわけもないので米兵側にも多数のPTSDが起きたりする)。報道の現場でも、同じようなバイアスはかかるし、送り手でそれを知っている人、積極的に操作している人もいるだろう。怖いよ。この回はまさに必聴です。


 その次にすごいなと思ったのは、聴取率調査週間(スペシャルウィーク)に流された
「コカコーラCM特集」(前編)
「コカコーラCM特集」(中編)
「コカコーラCM特集」(後編)
である。ゲストは映像コレクター?のコンバットREC。この人誰?俺知らないごめん。でも語りは熱くていい感じ。「俺たちの敵はここにいた! コカコーラCM特集リターンズ!」と題して行われた、コカコーラCMのDVDを見ながら高速で感想をぶつけ合うセッション、なんだけど、視点は完全に「格差社会の最下層側から上の若者像を撃つ」みたいな感じ。番組中では一回も「格差社会」って言葉は使ってないけど、「千葉のパン工場でランチパックを作りながら80年代を送った映像収集家コンバットRECが、友達も金もない当時の自分が見ていたCMへの怨念を吐露」って感じでトークが続いていきます。いい感じです。
 80年代末期、コカコーラCMはそれまでの外人崇拝から徐々に日本人セルフリスペクトにシフトしてきて、日本経済バブル時代の風潮にみごとにシンクロします。CM作ってるのは電通とかバブルにもっとも敏感な側だから当然ですね。だけど、そのCMを見ていたのはコンバットRECさんもそうだし僕もそうだけど、地方の金も友達もない若者なわけです。ブラウン管の中では松本孝美が微笑んでくれましたが、彼女のような素敵な女性がそばにいるわけもなく。よく考えると、彼女はバブル期の日本でもっとも珍重されたCMタレントで、そのセレブ度は現今のタレントだと二三人束になってもかなわないんじゃないかしら。藤原紀香3人分くらいの経済効果があったのではないかと思われる。
 バブル期とはなんだったのか、そしてバブル期に僕らは何をしていたのか、何を感じていたのか、そういうことを社会学者は考えてくれない(パオロ・マッツァリーノに今度考えてもらいたいものだが)なかで、このラジオ番組は鋭くあっけらかんと言及していて素晴らしかった。これは番組の歴史でも屈指の特集だと思います。
 毎週の「シネマ・ハスラー」も面白いし、宇多丸さんはすごいです。応援してます。って、リアルタイムに聞かない客なので宇多丸さんおよび番組スタッフ的にはうれしくないかもしれませんが、健康に気をつけてずっと続けてください。スポンサーがついてない感じなので心配ですが、がんばってね。