新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

偉大なバンドの消長など その1 ザ・ドアーズ

 先日ピンク・フロイドについて書いたのだが、ずいぶん前に、好きなバンドについて書いたエントリをアップロードしていないのを思い出した。二年近く前に書いたものですが、ちょっと修正しつつあげてみます。


 僕は最新の音楽にはいつも疎いので、懐メロしか聴かない。子どものときからそうだった。
 それはつまり、新譜をばんばん買えるほどお小遣いがなかったから、旧作・名作ばかり聴いてきたということだ。そういう風な聴き方をして育ったために、今でも最新音楽の動向にはあまり興味が向かず、もっぱら辛気くさい旧作ばかり聴いている。レディ・ガガもアデルもラジオでしか聴いてないし、フーファイターズやグリーンデイも、たぶん解散してから買って聴くのだろう。
 高校に上がった1980年に聴いていたのがドアーズ。ジム・モリスンが死んですでに10年経っていた(1971死去)。
 乏しい小遣いを貯めてゆっくりと古いアルバムを買いそろえていったのだが、その中にジムの詩の朗読にメンバーがBGMをつけた「アン・アメリカン・プレイヤー」という作品があった。これは1978年のリリース。あれ? ドアーズはジムが死んでも存続してたの? と当時不審に思った。別のアルバムの日本語ライナーノーツには、「ジムの死をメンバーが悼むコンサートがあった」と記されていた。ジムなき後、ドアーズはどれくらい存続してたのだろうか。
 wikipediaを見ると、ドアーズはジムの死後も「アザー・ボイセズ」「フル・サークル」の2つのオリジナルアルバムをリリースし、商業的には失敗、そして解散、とある。ちょっと驚いた。そ、そうだったのか。ふつうドアーズのディスコグラフィというと「L.A.ウーマン」で終わっている。それってウソじゃん。あと2枚もあったんだ…。
 僕がレコードを買いあさっていた80年81年頃、ワーナーパイオニアでは旧作アルバム1枚1,500円のセールをやっていた。だから僕なんかでもLPレコードを買えたのだ(2枚組「アブソルートリー・ライブ」は2,500円だった)。そのラインナップでもドアーズ全作品と称して「L.A.ウーマン」の次は「アン・アメリカン・プレイヤー」が並んでいた。あれあれ? その間の2つのアルバムの立場は…?
 ドアーズについて語る人は、何のためらいもなく「スタジオアルバム全6作」などと記す。ちょっと待て、ドアーズは他にも3作のスタジオ盤を出してるんだぞ!と言いたいが、僕もそのうち1枚しか聴いたことがない、ジム不在時の彼らの仕事を知らないので大きな事は言えない。なんだか可哀相なアルバムたちだ。突然いなくなったジムの穴を埋めるという、残された3人の苦闘が刻み込まれたアルバムだろうに。
 ドアーズはアルバム「フル・サークル」のリリース後解散したというが、1978年に「アン・アメリカン・プレイヤー」を出してるし、1980年には映画「地獄の黙示録」に主題曲「ジ・エンド」を提供してグループ名でクレジットされている。許諾を出す人がいた、つまりメンバーが了承したということだ。僕が聴くようになったきっかけもこの映画で、映画と前後してベスト盤が出たのを買った。「地獄の黙示録」は当時の大ヒット映画でテレビCMにも「ジ・エンド」がとても美しく使われていて、この映画がきっかけでドアーズを聴くようになった人は相当多いと思う。本当に幸いなことだった。コッポラ監督は大学でジムと知り合いだったというが、良い手向(たむ)けになったと思う。
 ともかくドアーズの3人はジム亡き後もドアーズとして仕事をしていたのだった。…それがジム抜きでは市場的にまったく評価されてない、今ではなかったことにされてる仕事であろうとも。

 wikiにはその後のドアーズの活動として、今世紀になってギタリストとオルガン奏者がドアーズを再結成したこと、ドラマーがそれに異議を唱えグループ名の使用差し止め訴訟を起こしたことなどが記されていた。この辺、メンバー間の行き違いが伺えて面白い。
 このようなことがあると、昔のバンドが今何をしているかがやっと世間に知れる。世間に知られなくても彼らは生き続けてきたし、日々暮らしていたわけだが、僕たちはそれを忘れがちだ。だが、栄光から遠ざかっても、芸術家たちは生き続ける。これは銘記しておきたい。
 このwikiを読んだのがきっかけで、昔好きだったバンドがその後どうしているか、やたらめったら調べてみた。これが非常に面白い。人間のダイナミズム、芸術の力、市場・商業主義の冷酷さなどなどが、昔の僕のアイドルたちの肩越しに立ち現れてくるようで。
 バンドは法人に似ているが、けっして法人ではない。代替わりして続くようなことは滅多にないからだ。かと言って、不可欠な個人の集合体、と断じるのも早計だ。バンドが続く、あるいは消え去る、いずれにもいろんな力学が働く。それをいくつか、僕の知ってる範囲で書いてみたいと思っている。


【追記】この文を書いたのはだいぶ前なのだが、当時はどこを検索してもドアーズ「アザー・ボイセズ」「フル・サークル」を購入することはできなかった。ところが、今Amazonを見ると、なんと、この2枚をカップリングした盤が売っていた! 急いで注文しましたとも。
ジム抜きドアーズ「Other Voices / Full Circle」
 Amazonのレビュワーさんが書いておられる通り、ドアーズの作詞作曲はキーボードのレイ・マンザレクかギターのロビー・クリューガーが主力で、ジムの作品は多くはなかった。僕はロビーのギターが特に好きだ。この人は超絶技巧もできる人だし、「ジ・エンド」のような不可思議で演劇的・空間的な音も作れる。ドアーズというとスターだったジムばかりが取り沙汰されるが、亡くなって四十年も経つことだし、ロビーのこともよろしく聴いてみてもらいたいです。
【追記】Amazonから届いたのでさっそく聴いたのだけど、残念なことに、出涸らしのような空虚なアルバムだった……。これは、売れないのもむべなるかな。ていうか、これ、作ってて辛かったんじゃなかろうか彼らは。


 さて気を取り直して。Amazonにはなかなか良い商品があって、格安にジム存命6作が揃うものがあった。しかも紙ジャケ。
ドアーズ(ジム在籍中)6作品セット
 これで2,775円! たぶん世界最安。
 僕が買い集めた三十年前は1枚1,500円でした。いやはや、デフレですね、二十一世紀は。

An American Prayer
 ジムの詩の朗読+音楽。朗読といってもNHKのラジオ番組のようなものを連想してはいけない。独り演劇のようにダイナミックでワイルド、かつ最後は泣けます。僕が聴いていたLPより曲数が多い。ボーナストラックがあるらしい。
 この作品は、ジム抜きのアルバム2枚と違って“魂”が入っている。ジムの死後つけたバックトラックも、演奏が生き生きとしている。オススメできます。