新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

【震災から一年】防災ラジオが欲しい……無印良品vs東芝

 無印良品の店に寄ったら、防災グッズ特集をしていた。その中に、四角く黒い、ちょっと厚いモノリスのような物体が。
写真は無印良品ネットストアから拝借しました。
 無印良品の、手回し発電機(ダイナモ)付きラジオであった。

 僕はラジオがわりと好きだ。前から好きだったが、今は基本的に在宅で過ごしているので、かなり聴く。ラジオ番組も好きだがラジオ受信機そのものも大好きだ。いくつか愛機を持っている。
 3月11日が近い。雷に打たれたように、うちにも防災ラジオが必要だ!と思った。啓示か。

 店頭で手に取ってみると、中国製とあるけど、素晴らしくデザインが良いし、モノとして魅力的だ。動くところ……発電用の手回しハンドルとかも安物っぽくない。

 大きさは、いつも食べてる絹ごし豆腐を一回り小さくした感じ。不愉快な出っ張りやひっかかりがない。これは魅力的だ……。
 無印良品充電ラジオ(LEDライト・時計機能付)型番:OC223」という名だった。
 その場でいろいろ弄り倒して、急いで家に帰って検索してみた。なんと、先月発売になったばかりだという。取扱説明書のpdfがあった。
 そして、昨年の地震によって、ラジオそのものがAmazonや価格コムでかなり売れているらしいこともわかった。Amazonを見ると、昨年3月以降、ラジオのレビューが激増している。被災地での経験を書き込んでいる人もいる。地震の前に書かれたレビューは「もしもの時に、と思って手回しラジオを買いました。携帯電話も充電できるから安心ですね」とのんびりしたものが多いが、3月以降のレビューは「余震の中で回しながら一晩中聴いた」と臨場感たっぷりのものから、「手回し充電ははっきり言って使えません」といった厳しい意見もある。はたして手回し発電ラジオは、いざというときどうなのか!?

 ちょっと調べてみると、この無印良品の四角いラジオにはライバルがいることがわかった。それは東芝の「防水型充電ラジオTY-JR50」という。
東芝 防水形充電ラジオ イエローTOSHIBA TY-JR50-Y画像だとちょっと小さいけど、実物は無印ラジオより大きい。

 そして、実は無印良品の「OC223」には先代モデルがあることもわかった、名を「M-JR20」という。
ほら、そっくりでしょ。サイズも天地奥行きは同じで、横幅が15mm短いだけなんだ。
 このM-JR20は実は東芝製なのだという。pdfの取説には「東芝コンシューママーケティング株式会社家電事業部」とあった。たぶん、良品計画東芝の共同開発なんだな。
 そして、震災とかいろいろあって、M-JR20の次世代機たちが二つの家に生まれた。容貌が瓜二つの無印良品OC223、顔はちょっと違うが性格を受け継いだ東芝TY-JR50。ということなのだと思う。

 説明していこう。
 東芝家から無印家に養子に入ったM-JR20は、「手回し発電機」「緊急時のライト、サイレン付き」「FM・AMアナログラジオ」「携帯電話への充電可能」「乾電池(単四2本)でも動く」というやつだった。四角四面の黒い顔、古武士のようなシンプルかつストイックな男であった。
 ところが、その息子である無印家の当代・OC223は、「手回し発電機」「ライト、サイレン」と“四角い顔”は受け継いだものの、中身は大きく変わった。「スマートフォンiPhone含む)にも充電可能」だけじゃない。入出力どちらにも使えるUSBポート(microUSB)を装備したため、「乾電池だけでなく、USB給電でパソコンでも家庭用電灯線(AC)でも動く」ことになった。さらに「FM・AMデジタル選局(DSP)」「デジタル時計」、非常に現代的である。可愛いのが、電池入れの横に空きスペースがあり、「本体内部に携帯電話充電ツールを一つ収納可能」。……すごい機能増えてる。
 M-JR20の実家である東芝家で防災ラジオ当代を襲名したTY-JR50は、「手回し発電機」「ライト、サイレン」をポップで明るい色の躯に包み、無印家とは違う方向に進化していた。いわく、「FM・AM選局はアナログのまま」「乾電池は単四3本使用に」「携帯電話への充電はUSBポート(フルサイズ)から」つまりiPhone純正ケーブルが使える。「ACは専用ACアダプタが付属」、そして何より「内蔵充電池は容量を1500mAhにアップ」。全体にマッチョになったというか。
 無印良品OC223は、デザインを受け継ぎつつ、中身をデジタルに進化させた。東芝TY-JR50は、昔の顔は棄てたものの、骨格は変えずに筋肉をつけてきた、ということかなと思う。

 ちょっと、気になるポイントを並列で述べてみたい。参考として先代M-JR20の数値も挙げておく。
■内蔵充電池の容量
 OC223→800mAh TY-JR50→1500mAh M-JR20→300mAh
■携帯電話充電ポートの出力
 OC223→DC5V 400mA TY-JR50→DC4.8V M-JR20→DC3.6〜3.8V
 ※TY-JR50とM-JR20は必ずハンドルを回しながら携帯電話に給電する。OC223はハンドルを動かさず、つなぐだけで内蔵充電池の電気を携帯に移す。

■手回し発電でできること
 OC223→手回し2分240回転の後、ラジオ15分以上、ライト20分以上、サイレン5分以上
 TY-JR50→手回し1分150回転の後、ラジオ約30分、ライト約35分、サイレン約15分
 M-JR20→手回し1分120回転の後、ラジオ約60分、ライト約30分、サイレン約5分
 ※ラジオの持続時間は音量に依存し、OC223は音量8、TY-JR50とM-JR20は「音量によって異なります」と断り書き。

 ここ、重要だからよく見るように。OC223は「2分間回す」ことが基本単位。TY-JR50とM-JR20は「1分間」が基本だ。TY-JR50は「1分150回転」と、回転数がやや高い。大丈夫か。ハンドル形状がよくなって回しやすくなっているのかナ?
 それより大事なのはOC223は「2分回す」ことを要求している点だ。「2分回して」やっと「15分ラジオが聴ける」のである。理論値では、1時間聴こうと思ったら、休み休み8分間回さなければならない……ということか?
 これでは「実際は手回し発電は使えないよ」と言われるわけだ。

 OC223は2月に出たばかりの最新機種だ。ちなみにTY-JR50は去年の11月登場。二人の親にあたるM-JR20は検索すると2006年にレビューされている。足かけ6年前だ。
 ではなぜ、OC223は最新機種なのに、手回し労働の効率が悪くなってしまったのか。

 推測だけれど、OC223はチューナーのデジタル化や、スマートフォンに給電するよう高出力を出すため無理してるんじゃないか。デジタル時計も、常に動いてるものだから電気を消費するよね。
 なお、この人たちは全員中国製である。だが東芝TY-JR50と先代無印M-JR20は東芝が絡んでいる。設計や製造管理、部品調達も日本がらみかもしれん。
 対してOC223はデザインはM-JR20を継承してるものの、株式会社良品計画と中国メーカーとの共同開発らしく、設計思想はM-JR20からかなり変わった。部品もたぶん日本がらみじゃないような気がする。その根拠は、デジタル選局(DSP)だ。
 今、中国製のラジオはデジタル選局(DSP)が多い。たぶん安くて高性能のDSP部品が出回っていて、アナログチューニング部品より手軽なのだろう。電源がmicroUSBになったのも似た事情かもしれない。USBはPCやスマホの汎用部品だ。

 もう一つ、気づいたことがある。店頭でOC223を触って音量を最大にしてみた。音量はデジタルで20段階。最大の20にすると広い無印良品店内にかん高く響くくらい音量は大きかった。
■3機種のスピーカの出力
 OC223→0.5W TY-JR50→0.25W M-JR20→60mw
 おお、OC223ぶっちぎりに高出力じゃん! 先代M-JR20のほぼ十倍!(60mwって計算すると0.06Wしかねーよ)
 ていうか、アンプがこんなに電気使ってるから、動作時間が短いんちゃう? 東芝TY-JR50なんてOC223よりずっと大きい充電池、あるいは1.5倍の乾電池を使うくせに、出力は半分しかない。けちけち使って長く動作しようという企図やね。
 ていうか先祖のM-JR20が出力小さすぎ。実機を見たことないけど、蚊の鳴くような音で鳴るんか?
 いや、実はそうではない。ラジオなんて、効率の良いスピーカなら60mWで十分なのだ。音はちょっと精彩に欠けてチープになるかもしれないが、多くのポータブルラジオの出力は50〜90mWくらいなのだ。それで室内でも屋外でも、人びとはラジオを楽しんできた。そもそも災害時に情報をとるのであれば、音質よりもどんだけ長く鳴るかのほうが大事なことは言うまでもない。

 OC223は恰好は良い。けど、災害時にはどうなのか? 使える子なのか? と疑問が湧いてきた。
 と言いながら、OC223の美しい姿に気持がぐらぐらしてるのだ。
■3機種のサイズの比較
 OC223 →幅125mm*高さ75mm*奥行き45mm (豆腐1丁より小さい。高さは文庫本のちょうど半分)
 TY-JR50→幅148mm*高さ85mm*奥行き40mm (幅が文庫本の高さ。やや薄いけど、スリム感には欠けると思われる)
 M-JR20 →幅110mm*高さ75mm*奥行き45mm (小さい。ポケットに入る)
■3機種の重さの比較
 OC223 →350g(付属品含む)…単四電池2本のことだろう。ちなみに単四は1本11.4gだから、ドライ重量は327.2g
 TY-JR50→380g(乾電池除く)…単四電池3本は含んでいない。実際に使う際は414.2g。
 M-JR20 →294g(乾電池除く)…同じく単四電池2本を含まず。実際に使う際は316.8g。

 無印良品の子たちはコンパクトで軽い。形もかんころ餅か羊羹のように四角いので、たぶん重量以上にコンパクトで持ちやすいことだろう。
 さらにエレガントなことに、OC223は携帯電話充電用の短いコードとアダプタを本体内に内蔵できる。
よく見えないでしょうけど、これはソソる光景!
 さらに良いのが、これ。
USB端子一つで本体充電も、携帯電話給電も可能!美しい!
 残念なことにTY-JR50は専用DC入力端子なので、本体以外に重たいAC/DCアダプタを持ち歩くことになる。USB給電できれば、iPhoneのACアダプタなど小さく軽いものが使えるのに。
 OC223には小さい液晶ディスプレイがあり、内蔵充電池の様子も携帯電話の電池残量とそっくりに表示される。携帯電話に給電してるときも進行具合がわかる。
 他の機種は電池残量がわからない。
 そして何よりOC223は、デジタル選局と、AM・FM各3局をプリセットできる。これは魅力だ。
 普段使いにはOC223が一番良いはずだ。これはもう、わかりきっている。アナログ選局だと、狭い周波数盤と小さなツマミで苦労して合わせなきゃならない。
 僕が今使っているラジオもデジタル選局だ。インターFM76.1MHz、NHK-FM82.5MHz、そしてFM世田谷83.4MHzをプリセットしている。FM世田谷は出力が小さいので部屋によってはアナログではうまく拾えない。デジタル選局が必須だ。
 ただし、DSPは良いことずくめじゃない。電池が切れるとプリセットした周波数が消えるし、AMは9kHzステップでしかスキャンできないので国外(外国は10kHzステップが多い)では使えない。アナログなら世界中で使える(FMは日本の周波数は諸外国よりズレてるので大抵使えない)。


 さらにさらに、pdfの取説を読むと、OC223のアドバンテージが見えて来る。
■3機種の受信周波数
 OC223 →AM: 531kHz〜1710kHz、FM: 76.0MHz〜90MHz
 TY-JR50→AM: 520kHz〜1610kHz、FM: 76.0MHz〜90MHz
 M-JR20 →AM: 515kHz〜1650kHz、FM: 74.5MHz〜109MHz
 どの機種もラジオ放送専門の局を聞き漏らすことはないから、いいっちゃいいのだが、OC223のワイドなAMレンジは魅力なのだ。1710kHzまで聞こえるなら、高速道路の路側放送(ハイウェイラジオ)1620kHzや、船舶気象通報1670.5kHzまで聴ける可能性がある【訂正】デジタル選局はAMを9kHzずつスキャンするので聴けないですね。失礼。
 M-JR20もハイウェイラジオは聞こえるだろう。だが船舶気象は無理だ。ちなみにM-JR20はFMが上に広くなっているが、ここは地上波アナログテレビの音声1〜3chだったので、今は日本では何も聞こえない。
 災害時などの非常時に、ハイウェイラジオや船舶気象通報が聴けたら、なんかちょっと良くないか? うーん、悩むのである。

 ただ、この度の震災でいろいろわかったことがあったと聞く。その一つが、被災者自身の「ラジオは、防災グッズの中にしまい込んでいたものじゃなくて、普段使っていたラジオが一番よく働いた」との言葉だ。普段から使えるものでないと、いざというとき使えない、ということらしい。
 もう一つ、「機能とか受信感度とかよりも、どれだけ長く動くかが大事だった」との言葉もある。ライトやサイレンなんてついてなくていいから、最後に入っていた電池でできるだけ長く動くやつがいい、ということか。
 また、デジタル回路がある機械は、電池残量が減ると突然ぷつっと音が鳴らなくなる。アナログな機械は、音が小さくなっても鳴り続ける。このへん、東芝がアナログにこだわる理由かもしれない。
 店頭でOC223を触って気になったのは、メインの電源スイッチは2秒間長押ししないとオンにならないのだ。うかつに入ったり切れたりするのを防いでるんだろうけど、操作に対して反応がないようで一瞬不安になるのだった。

 大変なときに使うものだから、せっかくだから、いろんな機能を持たせたい。人はそう思う。
 僕も、スイスアーミーナイフのような道具が好きな、いろいろあると便利だろうと思う人間だ。
 でもどうなのかな。大事な時にほんとに役に立つ、そして毎日つきあって楽しいラジオは。

 実はここまで黙っていたけど、こういうやつもいる。
SONY 手回し充電FM/AMポータブルラジオ B03 ホワイト ICF-B03/Wソニー伝統の防災手回し発電ラジオの最新型、ICF-B03。
 これは「一部のスマートフォンiPhoneには対応しておりません」と公式に謳っているので、最初から考慮の対象外にしていたのだが、Amazonには「iPhone4Sに充電できた」との報告もある。そして何より、これは「1分間120回転でラジオ60分聴取」という、M-JR20に匹敵するロングライフなのだった。もしかしてこいつが最強か!?
 最後に、これらの気になるお値段を書いておこう。
■4機種の実勢価格(2012.03.06時点)
 OC223 →無印良品ネットストアで5900円だけど売り切れ中。ネットで在庫見られるので実店舗にGO!!
 TY-JR50→価格comで6120円だけど送料525円もかかる。
 M-JR20 →無印良品ネットストアで3900円(昔は5900円だったらしい)
 ICF-B03→Amazonで5250〜5600円。

 まだどれを買うか決められない。すべて実機を触ってみないとわからない、というのが正直なところだ。ラジオは仕様(スペック)ではわからないことが多い。中国製は最近仕上げレベルはずいぶん良くなったが、部品の耐久性には今でも疑問が残る。昔のソニー東芝の国産ラジオは、本当に堅牢で、電池も長持ちで良かったんだよ。
 でも、そうした品質を実現することは、今のグローバル社会には似合わない。安かろう悪かろうに勝てないのだ。なにより、日本国内でラジオを製造することがとてつもない贅沢な行為になってしまった。ソニーは伝統の農作業ラジオやホームラジオのラインナップをどんどん整理している【訂正】農作業用の名機 ICR-S71は現役でした。東芝も、TY-JR50を売っているのは本社ではなく、東芝エルイートレーディング株式会社という東芝コンシューママーケティング株式会社の子会社だ。トレーディングというのは、つまり中国などから輸入する会社ということだろう。
 とりあえず、今は迷っていよう。最近は物欲が薄くなってしまったので、こうして「欲しいなあ」とワクワクしているだけでもとても幸せなのだ。
 ラジオは、衰退一方のメディアかもしれないけど、まだまだ大事なメディアだ。今日も素敵な音楽やむっとするニューズが流れてくる。いつか、毎朝手回し2分で丸一日ラジオが聴ける、なんてなるといいね。