新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

「母なる証明」感想というか疑問アゲイン

 なかなか忘れられないのでもうちょっと映画「母なる証明」について書いとくよ。
 今回のエントリは基本ネタバレで行くので、そのつもりで閲覧してほしいんだよ。 ていうか見ないほうがいいかもよ。

【以下、ネタバレ】 
 まず、僕は冒頭クレジット部分のお母さん(キム・ヘジャ)の踊りで驚いた。なぜかというと「これって誰に見せてるの?」という驚き。もし僕ら観客に向かって踊って見せてたんだとしたら、この映画はこれまでのポン・ジュノ作品とは違う、メタ的な映画なのかもしれない、という警戒警報が鳴ったのだ。…どうも違ったようだが。
 だけど、これに類する警戒警報がけっこう鳴る映画なのだ。

 息子トジュン(ウォンビン)の障害というか精神遅滞はどれほどなのか、映画の序盤ではここをはかりかねて、観客はうろたえる。立ち小便の最中の局部を母に見られても何はばかることのないトジュン。帰宅すると母の横たわるベッドに潜り込むトジュン。こういう、性的なタブーに触れているんじゃーないの?的な、観る者を慌てさせる部分がイヤな雰囲気を醸し出す。
 まあ、実は、この映画で不快にさせられたり、スリルを感じたりしてるのは、俺たち観客がまんまと監督の術中にはまっているってことなんだけど。だから許していいことなんだけど。

 だけど、ちょっとわからないところが何カ所かある。
 たとえば、殺された女学生の携帯電話内部の画像から、廃品回収業者の写真が出てくる。これはバストアップのような、顔をフレーム中央にクロースアップした写真だ。たしかこの携帯内部の写真というのは、女学生が売春して、その相手をこっそり撮っていたんじゃなかったっけ? だから他の写真は後ろ姿とかだよね。なんでこの廃品回収業者だけほぼ正面?
 そして、この廃品回収業者は、なんで今まで通報せずにいたの? 彼が通報せずにいるのは不自然だし、彼が通報していたらこの映画じたいが成立しないという、致命的な落ち度なんじゃないかと思う。

 それから、他の人たちのブログが指摘してることだけど、殺されるのが女学生で、容疑者がトジュンも、その後検挙された彼も、どっちも知的障害者ってのはどういうこと? これは「殺人の追憶」のもっともイヤ〜な一部を切り取って培養したような作品にも見える。これって韓国の田舎の風土が必然的に呼び寄せた、わけじゃないよね?
 コンクリート塊を投げる、というのもすごいよね。ふつうやるか? まあ、だから驚かされたわけだけど。なんか画作りのためみたいに見えて、説得力ないんですけど。ましてそれが実はキーファクターでした、ということならばなお。それとも韓国の女学生はふつうにコンクリート塊を投げるの?

 まあこんな粗探しをしながら思い返しても、なお強烈なインパクトをもった作品なんだけれども。とくにビジュアルはどこも好きですよ。夜の路地裏の闇、夜の屋上から見える村の明かり、雨の土手、廃品屋敷のぬかるみ…どれも好き。土埃のにおい、泥のぬめりとかが迫ってくる。この感触を画面に映し出せる監督はなかなかいない。
 それにしても、この後この母子はどういうふうに暮らしていくのか、怖くて想像できないよね。殺人者である息子を、同じく殺人者である母が庇護して生きるわけ。
 も、もしかしたら、あの磨りガラス越しに描写されたアレは、真相じゃなかったのかな?
 そんな不安すらぬぐいきれない、イヤ〜な映画でした。最高。