新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

「松嶋×町山、未公開映画」…「イエスメン」はやや微妙

 昨日のMXテレビ「未公開映画を見るテレビ」は「イエスメン」でした。「イエスマン」ではないって。すみません。
 2人の若者と彼らの仲間が、ゲリラ的に仕掛ける芸術的?なイタズラのドキュメント。政治的な主張に基づいているのでナンセンスなイタズラではない。そこが「ジャッカス」と違う。これまでの戦績が紹介される(うろ覚えでメモしておきます)。
■バービーとGIジョーの音声装置を入れ替えて、バービーに好戦的な台詞を、GIジョーになよなよした女っぽい台詞をしゃべらせる。それを玩具屋の棚に戻して消費者に買わせる。——性役割を固定化する玩具業界に一撃。
■「gwbush.com」という本物とちょっと違うURLでサイトを開き、ブッシュ(当時は大統領候補)をおちょくる。——怒らせて「表現の自由は規制すべきだ」とブッシュの本音を引き出すことに成功。
■WTO代表を騙ってザルツブルクで開かれたカンファレンスに出席、「選挙権をオークションで売る」「教育は民営化すべきだ」と発言。——あまりに本物らしくてバレなかった。つまりイタズラであることがバレず、失敗。
 そして今回は、やはりWTO代表を騙ってヘルシンキのカンファレンスに出席、ザルツブルクの雪辱を期す。
■「テキスタイルの未来、ライフタイムの未来」と題した講演で、「南北戦争の結果、アメリカをはじめとする先進国から奴隷制度がなくなってしまい残念。しかしイノベーションによりアジア・アフリカなど遠隔地に奴隷を飼うことができるようになった。あとは奴隷を監視する管理職の休暇を確保するだけだ」と、金色のボディコンスーツを披露する。巨大な男性器のような構造物の先端(亀頭にあたる部分)にはモニターがある。「このスーツは遠隔地の奴隷労働の様子をセンサーで受信し、モニターに映し出す。これさえ着ていればどこにいても、何をしていても奴隷たちの様子は管理できる」と、マヌケなCGで説明する。今回は会場(出席者、少な…)の失笑を買うことに成功。地元紙にも写真で取り上げられる。——ここまでで映画は前半終了。後半はより盛り上がるらしいので、まずまずか。(ごめん。曖昧な記憶に基づいてメモしてるので、不正確です)


 彼らのイタズラ自体にはあまりグッとこなかった。他にもハリバートン社の代表を騙ってへんてこなサバイバルスーツをデモしたりしてるらしいけど、微妙なところだ。万人が面白がるような造型ではない。
 むしろ彼らの面白さは、演説芸にあると思う。僕は下手くそな略し方で紹介してしまったけど、WTOが推進する自由貿易の本質を、「奴隷制度」という視点から説明してみせた講演は最高に面白かった。貿易は比較優位の原則で行われるものだけど、商品同士を比べるのではなく、そこに「労働力」という商品を組み入れると、第三世界の低賃金労働がものすごくクローズアップされる。それは先週のウォルマートの回でも言及されてたように、超低賃金、搾取、奴隷労働にほかならない。しかしそれを大まじめに説明しても、案外心には刺さらない。むしろイエスメンのように、マジに金儲けのために真剣に考えましたよ的にプレゼンテーションしてやると、起きてることの異常さがよく伝わる。
 ——ところが、会場の人たちには彼らの説明は心に刺さらなかったようなんですね。質疑応答は反応無しでした。もしかすると、「ん、たしかにフィンランドで奴隷を飼うと割高だ。遠隔地でやるに限るな。でもあの金色のスーツはみっともないので導入は見送るか…」なんてマジに考えてたかもしれませんが。
 彼らの説明芸は、WTOのロジックをとことん暴走させてみることから始まる。するとWTOの非人間的な側面が自然と現れてくる。彼らがWTOに扮して出たテレビ討論を聞いてて僕は驚いた。「教育を民営化すれば効率は上がる」と言ったイエスメンに対して、「とんでもないことを言う」と地元の?評論家は噛みついたのだ。もうほとんど、こんなこと言うようなやつとは議論なんてできない、とでも言いたげに。でも、日本もいまや国立大学が法人化されて資金を自己調達しなさいとされている。これって私学じゃん? アメリカはもうずっと前から一流の大学は私学だけになっている。対する欧州は、イギリスなんかは一流はみな公立。オーストリアも総合大学は国立だと思う。だから「教育の民営化」という話題への感覚もだいぶ違うのかもしれない。教育は国家が国民に対して提供すべきもの、という感じの合意があるのか。反対にかなーりWTOナイズされた日本では、優れた教育はもう民間にしか残っていなくて、公教育は貧民への食糧券のごとく最低水準の栄養素しか提供できないみたいだ。だからもっと早く競争原理を導入すべきだったんだ、とでも言いたげな経済学者がいそうだね。うん、ここ驚いた。
 変な仕掛けを苦心して作る描写が長い「ジ・イエスメン」。仕掛けよりも、僕は彼らの演説芸や、すてきなパワーポイントのプレゼンテーションをもっと見たいと思う。後編でも偽物スポークスマンとしてカンファレンスを荒らしているみたいだ。かなりウケてる(出席者の怒りを買っている)画が予告編にあったので、楽しみだ。