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新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

砂糖も、ニトログリセリンも、C4も甘い。感想文『炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす』佐藤健太郎・新潮選書・2013

なんとなくやっている糖質(炭水化物)制限ダイエットと関係あるような、ないような、まあどうでもよいが、非常に面白い本だった。

歴史+人類学+化学の軸で書かれた、非常にちゃんとした“唯物史観”の本。
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ところでマルクスのことを“唯物史観”というのは間違っているんじゃないだろうかと僕は思う。マルクスはマテリアルのことは書いてないんじゃ? 貨幣のことを書こうとして結局、宗教思想になってしまってるような…。
僕が好きなのは、この本のように徹底的に「モノ」にこだわって書かれた歴史だ。マーヴィン・ハリスが一番面白かった(ジャレド・ダイヤモンドは少し冗長に感じたな)。
本書は歴史の中に炭素化合物がどう顔を出すか、短いエピソードを抜き出して並べたような、読みやすい本だ。新書よりちょっと量が多いくらいか。もしダイヤモンドがこれ書いたら800頁くらいの大著にしやがるだろうナ。そのぐらいの内容をうまくまとめてある。
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本書が取り上げる炭素化合物は以下。
デンプン、砂糖、香辛料(芳香族化合物)、グルタミン酸
ニコチン、カフェイン、尿酸(痛風の原因物質だが、痛風患者には歴史的偉人が多い)、エタノール(アルコール)。
ニトロ(火薬)、アンモニア、石油、ナノチューブフラーレンなどの新素材…。
アンモニアは炭素化合物ではないが、窒素は炭素の隣の原子なんだと。炭素化合物と窒素酸化物の組み合わせで歴史が大きく動いたので取り上げられている。
糖質は甘いが、ニトログリセリンもすごく甘いそうだ。ちなみにプラスチック爆薬C4も羊羹みたいな外見で甘いらしい(最近は誤食を防ぐため変な味をわざとつけているらしい。軍隊で上官が新兵にC4を食べさせて腹をこわす事故が時々起きる)し。甘い味覚というのはヘンなのだ。
ノンカロリーの人工甘味料は糖質の分子に一つか二つ余計な枝をつけることによって、人体に吸収されない物質を作る、ということらしい。それでも甘いし、むしろブドウ糖や果糖よりメチャ甘いものができるのだとか。そう、どうやら「甘い」という感覚はすごくストライクゾーンが広いようなのだ。
かえって不思議に思うのは香辛料の「苦い」とか「辛い」感覚。「苦い」は毒性アルカロイドを避けるための警告なのだが、これがなぜか逆に人類を惹き付ける。もっと不思議なのは唐辛子の「辛い」で、じつはカプサイシンは無味なのだそうだ。ただし「痛い」感覚を与えるので、痛みをリカバーするために体が「熱い」反応をする、それが快感になるんだと。
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著者は化学者なので人体に関しては控えめな書き方しかしていないが、「甘い」「苦い」あるいは「うんこ臭い」といった感覚と炭素化合物、人類史の本があったらすごく面白いだろうな、と思う。
すごいなあ、と思うのは、炭素というのは地球規模の重量比で見るとものすごく稀少な物質で、チタンより少ないんだって。それを植物が光合成でせっせと集めてくれたおかげで、人類は様々な炭素化合物に囲まれてくらせるようになった。(石油は植物と関係ない説もあるのだが)
著者の佐藤健太郎氏は光文社新書でも書いていた。『「ゼロリスク社会」の罠』、これも面白かった。でも「炭素」というテーマを新潮社に取られたのは残念だ。