新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

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クソみたいな物語を面白く見せられる時代──感想『「おもしろい」映画と「つまらない」映画の見分け方』

部屋を整理してて出てきたので再読。

キネ旬総研エンタメ叢書 「おもしろい」映画と「つまらない」映画の見分け方

大変危険な本! 映画を「ストーリー(骨格)」と「テリング(盛り込まれたもの)」に分けて分析する、よくある本だけど、本書の危険さは他に類を見ない。岡田斗司夫のハリウッド映画分析とか、この手はいろいろあるんだけど、決定版だと思う。
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なんで危険かというと、「人はストーリーの起伏で感情を刺激される」「盛り込まれたものは(けっこう)どうでもいい」という明け透けな事実がバラされ、「こうすれば絶対、深く感動する」という急所が全部明かされている。
すべては動物としてのヒトの深層心理レベルに依拠している、そこには教養や人格はあまり反映されず、乳幼児レベルの快不快の原則が適用される。
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というか、思想にも感情を刺激する骨格はあるので、思想の善悪ではなく、非常に低いレベルの好悪が思想を左右してきた、ということがバレる。
マルクス主義吉本隆明が支持されたのも、思想の善ゆえではなく、読んだ人の感情を刺激した(それだけだ!)からじゃあないかという疑惑が持ち上がりかねない。
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映画に話を戻すと、「千と千尋」がジブリのピークで、以降のジブリ作品はストーリー作りにことごとく失敗している、というのがはっきり明かされている。ピクサーについては触れられていないが、どんなテーマでも絶対に感動させてくれるピクサーのシナリオは、本書の指摘通りベッタベタに作られていることもわかる。(だから最近のピクサー作品は構造が全部同じで、鼻につくところも多い)
イーストウッド作品は「グラントリノ」と「硫黄島からの手紙」が取り上げられているが、他の同監督作品もほとんど同じ構造を持ってることがわかる。「真夜中のサバナ」はちょっとはずしてるけど、「許されざる者」以降はほとんど同じだね、とファンならわかるはず。
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本書以降の映画批評は変わらなければならないはず。
これまでは「テリング」について語るだけの批評も許されたが、そうじゃなくて、作り手が「ストーリー」の動力源として採用した「哲学」や「倫理」を語らなければ、批評としての価値がないのではないか。
また、俗流の感想文で「見る人の趣味嗜好に依る」と投げっぱなしにしてしまうことがあるが、これもウソ。どんなに趣味が似た映画でも、このツボをはずして作られると、「テーマは良いんだがなぜかノレなかった」ということになる。
あと、本書は多くの映画では「真の主人公」がいて、ぱっと見の主人公とは違う、と指摘している。大物の主演俳優じゃなくて「こいつだったか!」という発見があると確かにメチャ面白い。