新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

ソー・ロング、L.コーエン。

レナード・コーエンが11月7日に亡くなっていた、とのこと。
もう年寄りだからいつかはこの日が来ると思っていたが、うーん、ついに来たか、と思う。
僕は19歳(あれ?20歳かな)で彼のレコードを聴いて魅了され、ずーっと聴いてきた。


1984。聴いたのは日本盤で1985の春だったような。「哀しみのダンス」と邦題がついたが、やっぱりこれは「Various Position 様々なポジション」と読むべきでしょう。「愛の終わりまで踊ってくれ」と訳していいのかわからないが、あの曲だけではなく、「ハレルヤ」や「夜が来る」「お前が望むなら」とかも名曲。二十歳のバカ大学生だったので人生のいろんな位相を理解するのはまだ無理だったが、低い声が魅力的だから聴き続けた。聴き続けてよかった。
闇に浮かぶ顔のジャケ写は自撮りなんだと。デジカメのない時代にこれはなかなか凄いと思う。
彼は二枚目で、デビッド・ボウイほどじゃないがほとんどのアルバムに顔を載せている。凄いのは、老いてからなおさら自分の姿をさらすようになったことだ。たしかに、美男子が老いさらばえたかっこ悪さがない、素敵な老人だった。たぶんさんざん悪いことをし続けてきたから、色っぽい老人になったのだろう。


1971だけど僕が聴いたのは1985。「愛と憎しみの歌」と直球な題名だけど、僕はこのアルバムが一番好き。ほとんどギター一本の弾き語りだけど、手に汗握って聴き入ってしまう。B面後半に唯一ライブ録音で入っている「君たち、別の歌を歌え」がとても好き。
彼のメロディラインの癖というか特徴的なものが、実はユダヤの宗教音楽の痕跡なのではないか、と思うようになった。このアルバムは特にその気配が濃厚。


1987。僕が聴いたのは1991くらいか。長くレナードのバックコーラスをやってきたジェニファー・ウォーンズによる、レナードのカバー曲集。「すごく良い青のレインコート」がメインだといえ、このもろに青いコートの写真をジャケにするのは如何なものか、と思います。けど中身は素敵です。「ジャンヌ・ダルク」でレナードも一緒に歌っているのだけど、アツアツをちょっとすぎた、アンニュイな雰囲気。大人の関係、というのをこのアルバムで感じた。
それにしてもレナードは「女たらし Lady's Man」を自称するだけあって、この後も次々バックボーカルを替えていくんだよね。それをジェニファーはどんな気持ちで見ていたのか、少し気になる。


1988。「俺はお前の男」、とはまたヌケヌケとした題名。1曲目「まずマンハッタンを獲る」は前作「様々なポジション」の柔らかく包み込むような感じとは打って変わって、90年代の幕開けを告げるモダンな、都会的な人工的な曲。発表は1988だけど僕が聴いたのは1989、たしか上京して初めて買ったCDだった。「みんな知っている」が哀しいメロディで好き。哀しいけど、下手にドラマチックに盛り上げず、哀しみを静かに噛みしめる曲調なんだよね。僕はこういう処にユダヤ的な何かを感じる。「このワルツをいかが」は前作「愛の終わりまで踊れ」のアンサーソングか。共作者(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)がいるんだよね。しかし「ジャズ警官」とかちょっとわからなくて、右も左もわからない東京に出てきて不安な青年は、都会的な曲の連打に少し寂しかった。


1992。最初聴いたときは、いつもと同じクオリティ、と安心してとくに変わった印象は持たなかったアルバムだけど、ある映画に使われたのを境に、もしかして最強&最兇なアルバムかも、と認識が変わった。
その映画とは、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」1994オリバー・ストーン。脚本はタランティーノ

映画の始まりが、低い声で唱えるチャントのような「奇跡を待ちながら」、しっちゃかめっちゃかな終わり方の劇終タイトルロールにかぶさるのが畳みかけるオルガンで始まる「未来」。この並べ方には衝撃を受けた。アルバムでは逆なんだよね。混沌とした映画世界がコーエンの歌声で始まり、歌声で収束する、とても美しかった。映画自体はストーンの子どもじみたというか学生っぽい実験映画ノリがダメだけど、サントラは良い。パティ・スミスも入ってる。俳優も、ジュリエット・ルイスウディ・ハレルソン、ロバート・ダウニーJr(収監前)、トミー・リー・ジョーンズとデラックス。レナードの歌声は彼ら全員を支配しているようにきこえた。
このアルバムには「デモクラシーがアメリカにやって来る」なんて名曲も入ってて、トランプが当選した今聴くとものすごく皮肉というか興奮する。彼はあの投票日の前日に死んだのだが、もし生きていたらこの「デモクラシー」を歌ってくれたんじゃないかと思う。


2001「新しい十曲」は21世紀の奇跡の快進撃の幕開け。彼はこのアルバムから、亡くなるまでの15年間で5枚もの新作をリリースするのだ。それまで寡作で寡黙な詩人、という印象だったのが、ジジイが何を生き急ぐのか、という感じで新作を作り、ワールドツアーをやった。日本には来なかった。前に来た時懲りたのかな。臨済宗の寺(妙心寺か?)で頭を剃って得度した際に、「日本の禅は死んでる」と云ったとか言わなかったとか。
それはそうと、このアルバムでは女性ボーカルさんが替わっている。ぬけぬけとジャケにまで載せて、それまでの彼女たちの立場は! こいつの女好きには勘弁ならん、と思うのだった。禅やってこれかよ、と。


「ある女たらしの死」。このアルバムだけ製作フィル・スペクターなので、あの分厚いウォールサウンドになっている。だから魅力的ってわけじゃないけど、ちょっと変わり種なので紹介。スペクターの手に懸かると、コーエンのユダヤ臭さが漂白されたのがわかる。そういう意味で興味深い。


2001リリースの、1979録音のライブ。たくさんライブ盤があるけど、これが一番好き。始まりの「野戦指揮官コーエン」が最高にカッコイイ。


最後に、非常におとくなBoxセットを。

このセットには、2004「親愛なるヘザー」までの11枚のスタジオアルバムが入ってて、なんと4000円を切る。一枚あたり330円である。しかもリマスターらしい。僕はもちろん全部持っているけど、昨夜注文してしまった。実は家にはもうCD再生機がないので聴けないのだが、クルマに積んでおいてカーステで聴こうと思う。動くかなカーステのCD。もう何年もiPodしか鳴らしてない。

それにしても、レナード・コーエンと同時代を過ごすことができて、本当に嬉しかった。彼はコロンビアレコードだから、ソニーなんだよね、彼を看取ったレコード会社は。いやー良い買い物だったと思う。晩年の彼が精力的にスタジオ盤を作れたのも、ソニーのサポートが良かったとか理由があるんじゃないかと思う。

彼の歌詞は、ここで全部読める LEONARD COHEN LYRICS