新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

私が好きなラジオ放送……古い音楽と「エフエム世田谷」について

 ラジオ受信機(ハードウェア)のことを書いていたら、ラジオ番組、ラジオ局(ソフトウェアになるのかな)についても書きたくなった。
 僕はいま、基本的に在宅しているので、ラジオを付けっぱなしにして聴いてる。
 朝0700時、NHK-FM(82.5MHz)でニュースを聴いたら、0720時からインターFM(76.1MHz)ピーター・バラカン「バラカン・モーニング」を1000時まで聴く。それから昼までラジオを切って、食事時に再びNHK-FMで天気予報やニューズを聴いて、続けて「ひるのいこい」を聴く。

「ひるのいこい」は悶絶するほど古風な番組で、小関裕而のテーマ曲とともに、全国各地の「ふるさと通信員」とかリスナーが送ってくるお便りを男性アナウンサーが淡々と読み、1960〜70年代の卒倒するほど古い歌謡曲が何曲かかかる。ただ古いだけじゃなくて、大ヒット曲ではないややマイナーな曲を選んでかけるあたり、すごい変化球だな、と卒倒する。古臭い、前世紀の遺物のような番組だ(じっさい六十年続いている番組だし)。お昼にテレビではなくラジオを聴くという層がまだまだいる。街の商店や食堂をやってるお年寄り、というイメージで発言してしまうのだが、そういう人に絶大な人気があるんじゃないかと思わせる、落ちついた魅力がある番組だ。たった10分と短いくせに堂々とした風格があるのだ。“変わらなさ”というものをお昼時に見せつけてくれる、安定剤のような存在だ。。
 続いて「ここはふるさと、旅するラジオ」。イベントカーとアナウンサーが全国に行ってお昼時にイベントを中継するという番組。毎回聴くわけじゃないけど、僕の知らない土地や、あるいは現地の観客がものすごく少ないとか天候が悪いとか、何かアクシデントを予感させるときは聴くようにしている。地方出身のタレントがゲスト出演し、地方の特産品をアピールしたりと、予定調和な番組だが、生放送だから時たまアクシデンタルなことが起きるのが楽しい。旅するアナウンサーは何人も居るのだが、今週は誰がどんな僻地に飛ばされるのか、行った先でどんな試練に遭うのか、それが楽しみで聴いている。

 それからまたしばらくスイッチを切る。1500時くらいにインターFM「ザ・DAVE FROMMショウ」をつけることがある。この番組は古くて頭の悪いハードロックがよくかかるので好きで聴いている。DJのデイヴ・フロムはテレビ東京の女性アナウンサーにしつこくからんだりとか素行が悪いのだが、AC/DCとかハートとかボンジョビとかストロークスとか、僕も好きだけど自分からは聴かない曲をよくかけてくれるのでありがたい。
バラカン・モーニング」にリスナーが寄せた便りで、「ラジオは知らない曲と出会えるから素晴らしい」というものがあったが、ほんとそう思う。僕もiPodに2万曲ほど音楽を入れてるけど、ここには僕一人の趣味しか入っていないので、音楽の世界が狭いのだ。バラカンさんはいろんな抽斗を持っていて、ブルーズやら民族音楽やら世界のいろんなロックを紹介してくれるので好きなのだが、デイヴ・フロムは世界の頭の悪い男子が好きそうな頭の悪そうな曲を専門にかけてくれるので理屈抜きに大好きなのだ。
 また「ザ・DAVE FROMM SHOW」は月水金にはジョー横溝という、僕とほぼ同世代のライターさんがレギュラーで登場してDJデイヴにいじられている。これが好きだ。ジョー横溝は「架空ロック・フェス」というコーナーをやっている。毎週テーマを決め、「解散した伝説のバンドがもし再結成したら?」とか「死んだあの人とあの人が共演したら?」「逮捕歴のある人ばかりでロックフェスをしたら?」とか、ひねったテーマでライブ音源を何曲かかけてくれる。僕は「放送禁止曲のステージ」というテーマの週にリンク・レイの「ランブル」を聴いてものすごくハマッた。古いインストの曲なのだが、これが昔は「青少年の風紀を乱す」ので放送禁止だったんだそうな。映画の対決シーンや緊張が高まるシーンにぴったりの名曲で、「ストリート・オブ・ファイア」や「パルプ・フィクション」にも使われた。
 ジョーさんはいじられキャラだが、実は「Rolling Stone 日本版」に寄稿するロック史に造詣が深い人でもある。またリスナーとデイヴの間を取り持つ、半プロ・半素人みたいな(?)スタンスが親近感を抱かせる。名キャラだと思う。声も良い(声は重要だ。面白いのに声が聴きづらくて聴かなくなることがあるから)。毎日登場じゃなくて月水金というのも良い。僕は月水金はけっこうこの番組を聴いている。

 1700時頃から夕飯の仕度をする。台所でロックを聴きながら働くのは楽しい。1800時にデイヴ・フロムの番組が終わると、インターFMはDJ抜きで曲をばんばんかける時間帯になる。以前はこの時間に昔の「ウルフマン・ジャック・ショウ」を再放送していたのだが、音源が尽きたのか、ただ単に古い曲が流れる「オーディオ・スクェア」という番組になった。1800時台は僕も好きな古いロックがよくかかる。ピンク・フロイドやドアーズがばんばん流れる、ちょっと悩ましい感じの日や、ボブ・ディラン、バンド、シカゴ、イーグルス、カンサスと、明るい選曲の日と、傾向がけっこう違って面白い。
 この番組を聴くようになって、AMのAFN(810kHz)を聴くことはなくなった。AFNも古いロックをよくかけてくれたが、やはり兵隊の年齢は年々若くなり(僕が年老いてきただけだが)、オールドなロックがだんだん流れなくなってきた気がするので聴かなくなったのだ。

「オーディオ・スクェア」は1900時台が近づくと、曲がコンテンポラリーというかダンサブルというか、ちょっと黒っぽいのもかかるようになり、趣味じゃないし、食事にはうるさいので、周波数を変える。エフエム世田谷(83.4MHz)だ。
 迂闊なことに、エフエム世田谷が入ると最近まで気づかなかった。僕の部屋は電波が悪いのだが、ある日たまたま電波を拾ったのだ。なんだか古い、60年代〜80年代の日本の曲をがんがんかけてる周波数があるゾ、と。1700時から2100時まで、衛星デジタル放送を再送信してる「natsukashino pops stream」という番組だった。
 上記リンクを踏んでいただくと、いきなり本日のプレイリストに飛ぶのだが、ご覧になっていただきたい。ものすごい懐かしい曲たちが並んでるでしょう? 本田路津子、トワ・エ・モア、ハイファイセットキャンディーズビリーバンバン原田真二。アグネス・チャンは好きじゃない。キャロル、フィンガー5、ガロ。大滝詠一荒井由実オフコース、とくるとああ大分新しいなと思う。中森明菜、かっこいいな、ロックだなと思う。
 エフエム世田谷コミュニティFMと呼ばれる、出力の小さい簡易放送局だ。用賀に本拠があり、二子玉川三軒茶屋から流す番組もある。可聴地域はどこらまでなんだろう、webサイトの「放送エリア」には武蔵野市練馬区も聴けるように書いてあるけど、20Wでどこまで届くか。うちは幸い、部屋によってはきれいに入る。

 エフエム世田谷番組表を見てもらえばわかるのだが、本局は、単なる地域密着型のラジオ局ではない。世田谷という土地に住む人びとの特色、ある側面を色濃く反映した番組作り・編成になっている。
 たとえば午後は日替わりで、渡辺真知子小室等など、懐かしいアーティストがパーソナリティを務める番組がある。火曜の晩には「サンプラザ中野くんのせたがやたがやせ」。あるいは日曜夕方「チータのありがとう世田谷」とか。いずれも一時代を築いた、かつ世田谷に縁の深い人たちなんだろう。僕は渡辺真知子のぶっちゃけたおばさん全開トークがけっこう好きだ。いま改めて聴く彼女の曲も良い。(チータは…僕は彼女が歌う軍歌が好きなんだが、軍歌はあまり電波に乗らないよね)
 あるいは平日深夜の「大石吾朗〜コッキーポッププレミアム」。ニッポン放送の伝説の人気番組が墓場の底から蘇って、当時のDJが当時のリスナーに向けて当時の曲を贈る。なんて業の深い番組なんだ! ヤマハが牽引した日本のポップミュージックの歴史、その重さを改めて体感する。(もっともこの番組は全国のコミュニティFMに配信されており、エフエム世田谷が制作してるわけじゃないかもなんだが)
 エフエム世田谷で「聴いてて気持ちよい」という番組を集めていくと、なぜだか60〜80年代の日本ポップが流れるものばかりになる。たぶん、これらはエフエム世田谷でもとりわけ人気コンテンツなんじゃないか。
 暴言を承知で言わせてもらうと、このラジオ局は、現代に背を向けている。少なくとも音楽に関しては。現代で語るに価するのはK-POPC-POPくらいであって、AKBなんちゃらは自局でやらなくとも他局がやるからよかろう、我が局がリスナーに届けるべきは、輝かしき60〜80年代の日本の歌謡曲だ、という割り切った使命感を僕は感じる。
 それがイイ!のだ。それでイイ!のだ。だから僕は喜んでエフエム世田谷を聴く。
 そもそも、インターやNHKばかりで他のFM局を聴かなかったのは、音楽が少ないし、かかるのは現代の、どれも似たような、つまらん曲ばかりだからだった。黄色い声の集団ボーカルとか、あんまり聴きたくないんだよ。ちょっと知ってる、古い唄が良いんだよ。
 かといって、衛星デジタル放送みたいに徹底的に音楽だけだと、ちょっと淋しい。DJソフトが自動再生してるのを聴くのは空しいでしょ? どっかに人間が介在してて、ラジオの前にいる僕に、誰かが手渡してくれる音楽を聴くのが、気持良いよね。ピーター・バラカンさんが人気あるのは、こういうこともあるんじゃないかと思うんだ。
 エフエム世田谷は、この割合が良い塩梅で配合されてて、見事に心地好い世界を作ってると思う。

 心地好いものを集めたら、古いものばかりだった……。
 それは、今の僕の心境がそうだから、だろう。同時に、日本のある側面を反映してるようにも思えるが、どうか。
 次から次へと生まれる新しいものが、どうも心地好く感じられない。大量生産の、価値の低い、フェイクに見える。人の手が介在しない、心の籠もらない、無機質な商品に見える。「作品」に見えない(「商品」は消費され尽くすとやがては「ゴミ」になるのだ)。
 ちょっと前、メンタルなバランスを崩していたのかもしれないが、本でも映画でも音楽でも、こう感じてしまって何も楽しめない時期があった。世界が灰色で、苛立たしいほど退屈で、つまらなく感じた。
 たぶん、初老期とか更年期に特有の心理なのだと思う。僕は定年退職する人たちより若いのに、彼らと似た暮らしをしているから、そういう心理に陥りがちなのだろう。言ってみれば、リタイア世代の心理を先取りしてるというか。

 どうも話が暗くなりがちだ。すみません。
 誰かがカバーした「ジョリーン」がリバイバルヒットしてたようだ。これだったかな? 他にもインターFMや街の有線で70〜80年代ヒット曲のカバーを耳にする。大昔の、スカスカな音だったヒット曲が、現代的で濃密な歌われ方で僕らの前に現れる。けっこう楽しい。あるいは、現代的な歌が流れるなかに、80年代の歌が突然放り込まれて鳴らされる、それも楽しい。インターFM「BAM!」は、DJのジョージ・ウィリアムズがよくPILの「パブリック・イメージ」や、イギー・ポップこんな感じの曲を突然かけるのだが、先月グラミー賞を取ったような現代的な曲たちにまじってこれが流れると、とても気持良い。
 なんだかよくわからないことを書き連ねてしまったが、悪いけどラジオについてはまだ書きたいことがある。それは旅先で聴くラジオについてだ。後日書きます。