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新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

さみしい話

 梅雨時…とは関係なく、ちょっと気分が落ち込んでいる。
 いつも散歩の途中で会っていた、愛想のいい猫がいなくなったのだ。雉柄の縞が美しい彼(?)は飼い猫だった。近所の、お洒落なデタッチドハウスに住んでいた彼は、外を通りかかった僕と目が合うと、「ニャ」と言って階段を下りてくる。撫でさせてくれるけれど、僕は触るのはあまり好きでないので、お互いに顔を見合ってるだけだが、まあ顔見知りというか友達関係だった。本当に愛想の良いやつだった。
 その彼がいなくなった。というかデタッチドハウスに住んでいた一家もいなくなったみたいだ。敷石の駐車場に停まっていた車もないし、大きなゴミバケツが残されてるけど空っぽくさい。カーテンは閉じられていて部屋を覗けないが、このカーテンは住人のものじゃなく物件所有者が室内が日焼けしないように吊した安物だ。
 住人は、彼を連れて引っ越したのだろうか。きっとそうだ。


 ここの住人は外国人だった。自家用車は普通の白いナンバーだったので外交官じゃなかったのだろうが。この家のあるブロックは全戸がこうしたデタッチドハウスで、たいがい外国人が住んでいた。隣の物件には以前は青い外交官ナンバーをつけたフォルクスワーゲンが停まっていた。そういえば、ここも車を見かけないな。
 そのまた隣も外国人向け物件なのだが、ここは長らく「For Rent」の看板が出ている。どの物件も広くて家賃が高いから、日本に駐在している外国人くらいしか借り手がいないのだ。その外国人たちがいなくなった、ということか。
 ここからちょっと離れた場所にも外国人向けの物件が何軒かある。こないだ通りかかると「For Sale」の看板が出ていた。そうか分譲だったのか、ここ。てゆうかここも前は外交官ナンバーが停まってたな。本国に帰ったのかな。それとも関西の領事館にでも転勤になったのかしらん。


 西伊豆の、何度か泊まったことのある民宿が、この春、宿を閉めて転居していた、と知った。震災の前に廃業を決めておられたようなので直接関係はないのだろうが、大きく言えば関係あるような。
 ここは良い宿だった。部屋は普通の和室で、窓からは田んぼとか幹線道路とコンビニが見えるだけの殺風景なとこだったが、風呂は天然温泉の掛け流し、食事は西伊豆の魚、エビ、アワビが格安で出てきた。西伊豆の大好きな入り江で泳いだ後、この宿に泊まるのが好きだった。ここをやってらしたご一家は他県に転居されたそうだ。そうか、西伊豆でもそうなのか。夏になると東京から行楽客が押し寄せる西伊豆。夏だけ、だからなのかなあ。たしかに僕も夏にしか行かなかったけど、今考えたら冬でも温暖だし、もっと行っときゃよかった。


 老夫婦がやってた近所の古ーい中華料理屋。ここは三度ほど来た。癖のあるラーメンが好きなのだが、麺を茹ですぎなので「硬めね、硬め」と念を押してやっと普通の茹で加減になるという難儀な店だった。ここが閉まったのは先々月だったか。蝋細工のサンプルが取り去られたショウケースに、「どんぶりご自由にお持ちください」と貼ってあった。捨てるに忍びなかったんだな、と思った。


 住宅街にあったお菓子屋も店を閉めていた。ここは利用したことがなかったけど、今風のお洒落なパティシェリーとかじゃなくて、バタークリームの載った懐かしいショートケーキとか売ってそうで気になっていた。実際はもうショートケーキなんて買わないし晩ご飯が入らないので食べないし、なんだが。更地になってたからいずれマンションでも建つのだろう。


 布団屋もシャッターが降りたままだ。布団なんてそうそう買わないし、今は買うとしたらニトリか通販だよな。むべなるかな。もうだいぶん前だがDVDレンタル屋も廃業した。引っ越してすぐ会員になったけど品揃えがつまらなかったので1枚しか借りなかった。むべなるかな。でももっと便利なとこにツタヤができたのでDVDは不自由してない。ていうかあまり映画も見てないなあ。
 いちばん悲しいのが、いきなり更地になってしまって、前は何屋さんだったか思い出せないことだ。最近はそれがとくに増えたような。いや中年で記憶力がボロボロになってるってこともありますけど、それだけじゃないよ。
 かと思うと、この不況下で新たに開く店もある。若い人が始めたらしい古道具屋、小さなエスニックな弁当屋、若奥さんが始めたカフェ……どれも流行るといいね、と思う。なかなか自分が客になれる店がないのが残念だ。
 凄いなと思うのは、家からちょっと離れたところに老いた職人がやってる和菓子屋があって、そこが淡々と営業を続けてることだ。今まで気にしたことがなかったのだが、この春に散歩の途中で桜餅(道明寺)を買ってからずっと気になってる。和菓子っていうのはだいたい、餡こが真ん中にあって、餡こをいろいろアレンジして食べさせるものだ。潰して色を付けた餅米や小麦粉の衣でくるんだり、片栗粉や寒天で固めたり……。この店のじいさんも毎日餡を練ってるみたいだ。古い建物、黒い土間、薄暗い店内、昭和三十年代を思わせるガラスのショウケース……通りかかって買い求める客はとんと見かけない。固定客がいるのか? 外商してるのか? 僕が知らないだけで名のある老舗なのか? 全然わからないけど、今日もここが営業してるとホッとするのだ。


 去年から「消費が落ち込んでる」という認識はあった。いろんな人たちの意見も、長引く不況、少子化、すべては消費の問題なんだよ、という結論でまとまりつつあったと思う。
 金融緩和か財政再建かといった議論は震災で吹っ飛んでしまった。それは震災復興がある程度の消費(なんだか投資なんだか)を見込めるので、少しは問題が解決やな、という気楽な見通しができたからじゃないか。なんて勘ぐってしまう。
 そして消費税増税の予告。復興に使う、という建前なんだろうけど、ほんとか。そもそも消費税増税がどれだけ税収増になるのか。消費はめちゃ冷え込むに決まってるし。確実に増えるのは、輸出主体の大企業が受け取る還付金だ。
 最近僕はケチになった。八百屋やスーパーで買い物するときは投げ売りの傷物ばかり手に取る。外食はしない。以前だったら「身銭を切って消費不況に抵抗!」なんて言いながら外で酒飲んだりもしたのだが、そんなこと一人一人がやっても無駄なんじゃないかと思うようになった。ただ一つ、やめられないやめたくないのは、見知った人のお店は大事にしたい、ということだ。この店が潰れたら悲しい、というお店には、月に一回でも行くようにしている。といっても昔なじみの池袋のお店には行かなくなってしまい、今の住まいの近所のお店に限られるけど。そもそもそんなにお酒を飲めなくなったしね。しかし、その小さな抵抗もどれくらいお店の役に立つのか。こんなふうに「大きな売り上げにはならないけど、応援してますよ」ってお客が何人かいるよりか、お店のことそんなに好きじゃなくても経費でばんばん飲み食いする社用の人たちが何組かいたほうがお店はよっぽど嬉しいに違いない。
 個人の無力、結局日本で力持ってるのは個人じゃなくて会社じゃん?……という気がして、気持ちが落ち込んでいるのだ。
 ああ、いかんいかん。こういう気分のときは手を動かすに限る。昼飯作って食べようっと。