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新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

なぜ印税率は部数比例なのか

 前回のエントリで印税額を書いたところ、コメントで「印税は実売部数比例ではなく印刷部数比例なのか」「業界標準はどうなのか」といった質問をいただきました。ちょうど今日書きたいテーマとも重なるので、僕個人の経験した範囲内でよければ、お答えします。


■なぜ印税は印刷部数比例なのか?
 僕は平成13年まで出版社の編集部門にいたけど、その間「実売部数」で印税を払う契約をしたのは1回きりだった。外国在住の著者で、税制の違いがあってこうしてくれと頼まれたケースで、「一定期間までは実売数に比例して払う。一定期間経過後に残りを全額払う」と契約したと記憶している。これがほんとに税制のためかどうか真相は知らない。
 他のすべてのケースでは「印刷部数比例」で印税を支払ってきた。
 なぜ「実売数比例」ではないのか? 
 それは、「実売数」だと「印刷部数」よりも支払う側受け取る側双方に様々なストレスがあるからではないかと思う。
 たとえば、実売数とはいつの時点での売上をいうのか? 仮に発売1カ月後としたら、そのときの取次への搬入数にするのか。ずっと前にも書いたけど、出版社から取次に搬入するだけで一応「売上」が立つわけだ。ここを実売数とするか。あるいは書店からPOSおよびスリップで出版社に売上報告があったもののみにするのか。90年代はPOSの普及率も今ほどではなく、実売数のトレーサビリティは非常に低かった。POSがかなり普及した現在でも、商品1点1点となるとトレーサビリティは低い。毎日POSデータがあがってくる書店は、書店全体のなかでも一握りだからだ。多くの書店は月次データが基本で、それも集計ミスなどの事故があったりまだまだ信頼性が低い。POSは、市場動向を見るためのサンプルデータとしては使えるが、リアルタイム決済に使うにはまだまだだと思う(ここにも取次=販売会社の存在理由があると思う)。
 印税を「実売数」で支払うためには、こうしたハードルを乗り越え、「印刷部数」よりも格段に煩雑な事務が増える。多くの出版社の貧弱な経理システムでは対応不可能だろう。だから多くの場合、「印税とは印刷部数比例」という慣行になってるんだと思う。
 それでも「実売数」で印税を支払う会社もあると聞く。それはなぜか。推測するに、返本分の印税は払わない、著者への支払いサイトも延ばす、等々で資金繰りに役立てるため、としか思えない。
「実売数」で印税を払うとすると、著者は新刊刊行直後に収入が発生しない。これは書き手のモチベーションを大きく下げる。刊行後1カ月後とか2カ月後、半年後に印税がちょぼちょぼ入ってくる、しかもその額は前もってわからない、では書き手の生活が成り立たない危険性すらある。
 在庫がなく実売数しかあり得ない電子書籍だとこういう状況もあり得るのだ。事実、電子書籍の刊行元が毎月決済で振り込もうとすると振込額より振込手数料のほうが高くなった、という笑えない話も聞いた。
 推測だが、現在「実売数比例」で印税を払っている出版社は、「一定額は刊行時払い、残りを一定期間経過後に実売数比例で」としているのではないか。いくらなんでも、新刊時に著者が収入ゼロっていうのはあり得ないだろ。もっとも、印刷部数比例だとしても支払いが「刊行後2カ月後」とか「半年後」というケースもあり得るが。(新刊から半年経てばだいたい返本も落ち着くから、限りなく実売に近い数字を把握できる)。
 以上、僕は準大手以上の感覚しかわかりませんが、こんな感じです。しかし、今後はこれも変わっていくかもしれません。POSが十分に信頼性を持ち、最終的に商品が売れた時点で払うのが当然だろ、というふうに業界慣行が変わっていかないともかぎらないからです。「実売数比例なら印税率を上げますよ」という提案もアリかもしれませんね。さ、どうなるんでしょう。