読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

リストラなう!その42 撤収

 会社員生活最後(なのか?)の日曜。天気はいまいちだが冷涼な風が吹いてて気持ちがいい。ていうかやや寒い。何月だ? 今年はほんと天気が変だぜ。ま、肉体労働にはもってこいの日だ。
 午前中、新しく作ったクレジットカードを受け取りに郵便局に行き(カードは会社員でいるうちに作るにかぎるね)、午後に会社へ行く。出勤ではない。荷物をまとめて運び出すのだ。
 金曜にあらかた整理を済ませていたので主だった荷物はもう段ボールに入っている。あとは漏れがないか確かめて……と、廊下のロッカーを忘れていたよ。よれたネクタイと、吊るしっぱなしだったスーツとジャケット(クリーニングのビニールをかぶったままだ)を回収する。ロッカー最下段から靴が出てきた。大昔に買ったウイングチップのブーツ、履きっぱなしで手入れしてないので今年の大河ドラマの主人公が履いてるやつみたいにヨレヨレだ。レースも千切れている。迷いに迷ったあげく、くずかごに放り込む。もう履くこともないだろ。
 荷物はなんとか大きい段ボール二つくらいになった。運び出して車でアパートに運ぶ。いまのアパートは会社のすぐそばだから楽ちんだ。
 お茶飲みながらメールを開くと知り合いから耳寄りなお知らせが届いていた。
「男物の古着をホームレス支援の団体が求めてるよ。“ホームレス支援”“新宿”でググれカス」
 ググってみるとたしかにあった。「新宿連絡会」という。
「寄付募集」のページを見ると、「衣類関連」のなかに「靴」という項目がある。あ、この手があったか。ていうかあの靴まだ十分履けるよな、磨けば。
 再び服を着て(家にいるときは上も下もCW−Xだけ、なんて格好をしています。モジモジ君?)、会社に向かう。アパートが会社に近いのは便利だな。
 廊下のくずかごに突っ込んだ靴を回収し、ぶら下げて帰る。通用口を出ようとして、人とすれ違った。僕と同じく明日で辞める人だ。この人も撤収に来てるんだな。通用口には台車に何個も段ボールが乗って待機していた。長くいればいるほど荷物は増える。たいへんだ。
 新宿連絡会の送付先は高田馬場になっている。近いぞ。これなら直接持って行ける。六月になったら引っ越す、と決めてたのにブログ書いてばっかで何の準備もしてなかった。古着もいっぱいあるが靴も多い。どうしよ?と思っていた矢先なのでじつに助かった。ちょっとわくわくする。


 夕方、ぼーっとしていてふと思いつき、僕にとって数少ない年若の友人に電話する。あれ、通じない。番号間違えてたか。仕方ないツイッターだ。ダイレクトメッセージを一発入れる。
「暇な時うちに来てください。服とかネクタイ差し上げます。それからiPhoneの番号教えて。僕は 080zzzzxxxx なり。たぬきち拝」
 ちょっとしたらアイフォンがぴょこーんと鳴って、ダイレクトメッセージが返ってきたことを知らせる。
「ありがとうございます。今日含め、日曜は空いている日が多いです。いつでも呼んでください。iPhoneは080xxxxyyyyです」
 おお、素早い。ていうか今日、日曜じゃん。電話する。
「突然電話してごめん。たとえば今日はどうよ?」
「ちょうど今池袋なんです。じゃ、おうかがいします」
「何してたの?」
「漫画喫茶で昼寝を」何やってるんだかw。
 霊園の端っこで待ち合わせる。あれ、いない。iPhoneでグーグルマップを呼び出し、現在地をタップする。すると「場所を送信」という選択肢が出てくるので、それをMMS(SMS)で送りつける。ここに来い、と。なんて便利なんだiPhone
 ツイッター、電話、マップ、ショートメール、すべてが連繋して動いているiPhone。もう最高に楽しいし便利。いま僕は初めての人と会ったり、知らない場所に行ったりすることも増えている。これからはもっと増えるだろう。仕事を探したりもするしな。iPhoneはこういうときもまめまめしく僕を支えてくれる。もう手放せないな。今世間はiPadの話題で持ちきりだが、そりゃ面白いだろうってことは推測できるけど、僕は相変わらずiPhoneに夢中だ。なぜ夢中かというと、こいつはコミュニケーションツールだからだ。コミュニケーションはハマる。そして新しい何かが生まれるきっかけになる。
 ビールを開け乾杯。ひさびさに会ったので近況など話す。僕は明日、最後の出勤なんだよ。へぇ、羨ましいなあ。いいだろー、君は明日からまた一週間働きなさい。ちぇっ。
 箪笥から冬物を中心に見つくろってもらう。ホームレス支援の団体が今必要なのは夏物みたいだから、彼には冬物を持ってってもらおうという算段。なんとも虫がいいよね。
 そうこうしてるうちに八時十五分前、もうすぐ大河ドラマ龍馬伝」の時間だ。急いでうどん(加ト吉)を作って二人ですすり、テレビの前に座る。今週は後に龍馬の愛人となるお龍の登場、そして囚われた半平太、逃亡中の以蔵など、ドラマチックな挿話がてんこ盛りだ。序盤、土佐の役人が勝塾(海軍創建のための私塾)に押し入り、土佐の下士を連行しようとしたのを、塾生全員で押し返すシーンで涙が出た。やばい。年寄りは涙もろくて。隣で見てる彼にバレないように涙を拭くが、どうせバレてるだろうな。
 ドラマが終わり、夜も更けた。帰る彼を送っていく。かなり重たい荷物になって彼には悪いが、箪笥はちょっと隙間ができていい感じだ。
 再びアパートでひとりになり、なんとなく「ブラックホーク・ダウン」のサントラを聴いてるうちにしんみりしてきた。このアルバムは終盤が切ない曲になっているのだ。なぜこれ聴きたくなったんだろう? そうか、「龍馬伝」も「BHD」もリサ・ジェラードが歌ってるからか。それで無意識に。
 エンドクレジットの曲、故・ジョー・ストラマーが歌う「ミンストレル・ボーイ」がいよいよ切なく響く。アイルランド民謡。戦争に行った若者を悼み、称える唄。
 これから失職する僕を待つ運命もきびしいだろうけど、仕事を持つ彼世代の若者もけっして楽じゃない。ていうか、よく指摘されるが僕はバブル世代、リストラで会社を辞めるといっても条件はすごくいい。彼はロスジェネのさらに下、これからも苦闘が続く。
 ストラマーのボーカルが消え去り、スネアが静かにリズムを刻み続ける。僕はスピーカのスイッチを切った。明日は最後の出勤だ。(つづく)