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新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

リストラなう!その37 楽しい送別会

■ヴィカス、お前は俺か!――映画「第9地区」を見たよ
 今日はブログも更新したし、街に出て映画でも見るべと、ずーっと気になっていた「第9地区」を見てきた。いやー、これは凄い映画だった。
 南ア・ヨハネスブルグ上空に止まって動かない巨大宇宙船の中に、百万ものエイリアンが発見された。円盤直下の地上にキャンプ「第9地区」を設営し弱り切った彼らを収容して二十年、難民キャンプはスラム化、地球人との軋轢が問題化し、当局は巨大企業MNUに彼らの郊外移送を委託。主人公ヴィカスは巨大企業の中間管理職、平凡で野心のない三十代。エイリアンに強制退去を承諾させるミッションの最中にふとしたことから“何か”に感染し身体が徐々にエイリアン化する……。
【※以下、ちょっちネタバレ気味なので「これから見るぞ」って方は次の小見出しまで飛ばしてください】
 序盤は偽ドキュメンタリー形式で、膨大な情報がたたみ込むように見る側にインプットされる。物語世界へ高速で没入させる激ウマの脚本。GoogleYouTubeの時代だから生まれた表現だと思う。だけど最初は登場人物の誰にも感情移入できないんだよね。他人を思いやることのない会社員どもにも、醜いエイリアンにも、僕らは自分を投影できないもん。
 中盤、主人公の逃亡劇が始まって物語は一気に動く。大企業の社員だった主人公が、身体が変貌したために拷問され生体実験され、挙げ句に切り刻まれて標本(遺伝子製剤?)にさせられそうになる。企業の獰猛な経済論理の犠牲者。このへんから彼への感情が揺らぎ始めるのだ。気のいい、だけど他者への思いやりに欠け、宇宙人を差別してもなんとも思わないやつ、から“僕らと同じ弱い人間”へと変わり始める。そして彼は逃亡し、仲間と出会い、武器を手にし、古巣の会社に殴り込みをはかる。
 ここからもう、僕は滂沱の涙が止まらなくなってしまった。弱っちい社員だったヴィカスが会社に棄てられ、お尋ね者にされ、ついに反逆する……ヴィカス、ヴィカス、お前は俺か!
 さーせん。みっともなく取り乱して。でもねでもね、この映画は「会社から棄てられる人」が見たらみんなやっぱりこう思うと思うよ。僕なんか「同僚を売ったやつ」なんて言われてるんだから、主人公の寂寥感がわかるよ。この映画のドキュメンタリー部分で同僚が主人公のことを「裏切り者だ」と言ったりしてるの聞いたらドキッとしたよ(もっとも、不慮の事故に遭った主人公と違って僕は自分からやってる、完全な自己責任なんだけどね)。
 この主人公がまたダメなやつでね。肝心なときに何度も友達を裏切るんだ。いかにも、僕のような弱い人間がやりそうなことだ。
 そして友達がまたいい。友達っつーか運命のいたずらで共闘することになったインテリゲリラのエイリアン親子な。「クリストファー・なんとか」って名前がついてたりして。あんな巨大エビみたいな姿なのに「クリストファー」。笑う。たぶん政府が難民台帳つくったときに機械的につけたんだろな。
 だけど「赤チョッキ着た緑のエビ型宇宙人」から名前がついて「クリストファーという個人」へと変わると、感情移入の向きが百八十度変わるんだよね。名前って不思議だ。そういうことってあるよね? 「どこそこ社の主任」から「▽▽さん」に変わる瞬間とか。
 映画は猛スピードで急展開に次ぐ急展開、そして主人公がエイリアンの武装歩行機械を操ってクライマックスの壮絶な銃撃戦へとなだれ込む。もう涙を拭いてる暇もないくらい泣いたよ、ここ。
 主人公はこれまで深くものを考えず、大会社の正社員・偉い人の娘婿、という立場を享受してきた甘ちゃんだ。まるでこれまでの僕のように。仕事はそこそこできるがテキトーだし、大事な友を裏切ってしまう弱さがある、情けない人間だ。その主人公がクライマックスを迎え“ある選択”をすることによって、人間としての尊厳を取り戻すんだ。最悪の苦境のさなか、それまで持てなかった誇りと勇気を取り戻す。この過程が僕には涙なくして見れなかった。
 論理を整合させつつ感情をみごとに揺さぶってくれる、考え抜かれた脚本。限られた予算を上手に使い、舞台に広がりとリアリティを与えた特撮。スタジオぬえ世代はここにも涙するぜ。演技ももちろんいい。宇宙人をどういう仕組みで動かしてるのか知らないが、彼らの演技も素晴らしい。最高の映画だったな。
 主人公のその後は……秘密だけど、たとえ彼のその後の運命がどうであろうと、自力で人間の尊厳を取り戻した彼はもはや不幸じゃない、と僕は思う。僕の言葉で言えば「立派な野良犬になれた」んだ、と思いたい。僕もあんな風になれるかな?


■書店さんが送別会を開いてくれたんだよ
 金曜は書店さんへの月例・新刊説明のミーティングだった。某チェーンの本部を訪問。じつは先月の会合で「来月いっぱいで退職します」と伝えると、「じゃあ次回は○○日の十七時からで」と時間が自動的に決まってしまった。「その後も空けといてくださいね」とだめ押しの一言付きで。
 僕にとって最後のミーティングは、やっぱり締まらない感じで終わった。最後までプレゼンとか苦手なダメダメ営業マンなのであった。
 その後、毎月毎月ミーティングに時間を割いてくれていた商品担当のみなさんと居酒屋に移動。気取らない、それでいてお酒と十割そばの美味い店だった。
 このチェーンは創業三十数年、私鉄沿線に展開する、業界では比較的若い会社だ。はじめの頃は書店名もマイナーだったので、版元に電話しても地方の有名な書店チェーンとよく間違えられたという。そこから今や約四十店舗を展開する、堂々たる大手になった。このチェーンで“発見”されベストセラーとなった本も多い。毎年、時期を決めて版元別にノンフィクション系文庫、ビジネス書、小説系文庫の版元対抗コンペをやり、そこで一位を取った本をさらにチェーン全体で売り伸ばす、といった活気のある仕掛けをしている。商品担当のみなさんは、それこそチェーン立ち上げのときから苦労をともにされてきた同志たち、という雰囲気。仲が良い。お互いに刺激し合っている。僕たち出版社の営業も、このチェーンのイベントには特別な思い入れを持っていて、小説文庫のコンペのおりなど熾烈な臨店合戦を繰り広げたりした。今となっては本当に楽しかった思い出だ。
 僕は口べたで(ブログ弁慶、とでも申しますか)営業トークもしょぼい。だけどメールなら書けるよ、ということで、毎週火曜に新刊・既刊重版のお知らせをメールで送るようにしていた。このチェーンは先進的で、社員ひとりひとりにメルアドがあって名刺にも入っているのだ。ローラー作戦で臨店して名刺を集めるとかなりの数のメルアドが判明した。最初の頃のメールは重版した本について書いてただけだが、そのうち調子に乗って「今週の独り言」などと、最近読んだ他社の本だとか、見た映画だとかのことを書くようになった。さらに調子に乗って、いろんなチェーンのお店のメルアドを聞き出して、あちこちに送るようになった。
 ある会合のとき、商品担当の方から「うちの若いのはみんな、▽▽さんのこと、注文しやすいって言ってるみたいですよ」と言われた。これはすごく嬉しかった。「なんとか社の営業」から一歩か二歩、近寄れたと思った。たしかに注文が増えている感じがした。メールでもファクスでも電話でも。そして僕もみなさんの注文のやり方、癖、傾向などがわかるようになり、名前から顔が浮かぶようになり、愛着が湧いてきた。
 僕が知っている書店員さんは、みんな働き者だ。骨惜しみする人は一人も知らない。店長だろうと契約社員だろうと、いつもみんなが忙しく立ち働いている。本部でチェーン全体を見ている人たちもそうだ。出版社側からの急な問い合わせにも忙しいなかを縫ってすぐに答えを返してくれるし、膨大な商品を把握するべくデータのチェックにも余念がない。職責や職能で見え方は違っても、まめまめしく働く人たちがそろっているのは確かだと思う。それはこのチェーンだけじゃない。僕の知ってる書店員全員がそうだ。
 反対に残念ながら出版社には、骨惜しみする人、返事の遅い人がどうしてもなくならない。
 この違いは何か。もしかすると、最後の最後に商品を買ってくれる人、エンドユーザと直接対峙しているかどうかの違いじゃないか、と思うことがある。
 店頭に来たお客さんにウソはつけない。働いてるフリをしても見抜かれる。お客さんの視線に晒されていると、内向きの仕事ばかりして働いた気になる、なんてこともできない。
 翻って送り手である出版社を見れば、エンドユーザから遠くなればなるほど、内向きの論理に囚われてしまう人が増える気がする。社内を見て働くことが多くなると、誰も見ていないところでは手を抜くことも平気になるんじゃないか。そういう方向に流されていても気づけなくなるんじゃ? 自分を含めて、そう思う。
 某チェーンのみなさんが開いてくれた飲み会では、今だから話せる趣味の話、なんてのもいっぱい飛び出したが、いっぽうで「電子書籍に書店はどう向き合うか」「売るための仕入れ、返本しないための仕入れ」といった話題でも商品担当の人たちは激論していた。ほんとに働き者ぞろいなんだから、とまたまた思うのだった。某チェーンのみなさん、ほんとにありがとうございました。



■最後の(?)同期会、だったんだよ
 飲み始めたときはまだ明るかったけど、とっぷりと日が暮れた。郊外駅の周辺は街灯が暗いところもある。みんなで居酒屋を出て歩いていると、中天にきれいな半月が浮かんでいた。郊外は空気が澄んでいるのか、くっきりして美しい。
 駅で「いつかまた、必ずお会いしましょう」と何度も頭を下げ合い、名残惜しく別れる。さよならだけが人生だ、なんてね。
 都心に戻る準特急に乗ると、来たときと違ってあっという間に着く感じだ。これから会社の近くに戻り、そこで行われている同期会に合流する。たぶん二次会になってるんじゃないか。
 同期の一人に電話すると「あ、たぬきち?」などと返答が。こらこらその名を出すんじゃないって。
 どうも、まだ一次会の居酒屋でやってるようだ。始まって四時間くらい経つけどな。長っ尻だな。
 大箱の居酒屋でボックス席をあちこち探すと、八人ほどが集まってる席があった。おお、出席率高いじゃん? 僕の同期は十二人、そのうち今回辞めるのが四人。今夜は来れなかったり僕と入れ替わりで帰ったのが三人。いま居るメンバーでは辞めるのは僕ともう一人、だった。
 残る同期も今度の人事異動で職場を移る者が数人。異動がない者たちも予算や給与が減ることで仕事の進め方はグッと変わること必定。誰もが変化の秋(とき)を迎えている。
 思えば、この同期たちとは平成元年の春に会社の隣の古くて小さいビルでいっしょに研修を受けたのだった。時間外伝票の書き方を教わったとき、総務の担当者から「部署名はどんなのを書いてもいいですよ。希望の部署でも」と言われたので、僕は「社長」と書いたら「社長には時間外手当はありません」と言われたよ。バカだったね。今もバカだけどね。
 異動予定の者たちは、なんだかしんみりとした話になっている。辞める予定の僕たちは、その先どうするかまったく決めてなかったりなので、しんみりする隙もない、とゆーか。
 ずっと以前、若かった頃は飲み会でつかみ合いになったり険悪な言い合いになったりしたこともある。あの頃僕は編集で、他の多くの同期は営業系だった。僕一人が編集風を吹かせていたのだから、そりゃムカッとするわな。すまんかった。今は僕が営業で、他の多くは編集だ。時代は変わったし人も変わった。
 平成元年入社はバブルのピーク直前で、内定中に他社に流れないよう拘束があったりした世代だ。今の若い人は「なんじゃそりゃ」と思うかもしれない。バブル崩壊が出版社を襲ったのは世間よりずっと遅く、それまで僕たちは順調に定期昇給やベースアップの恩恵にあずかった。今の若い人はベアなんて聞いたことすらないだろうし、定期昇給も一時凍結される。そして僕たちの世代は四十代半ばを迎え、ある者はヒラ営業マンとして会社を去り、ある者は中間管理職として会社に残る…。
 そういう雰囲気の、なんだかしんみりした飲み会だった。
 この会社は、バブル崩壊の波及が遅く、むしろその頃雑誌広告が絶好調で、内部にはいろんな問題を抱えていたのにそれが顕在化しなかった。そのため問題を認識するのをつい忘れてしまい、イノベーションを起こす機会も失われた。その結果が、今般のリストラだ。イノベーションを怠ったツケは大きい。
 だからこそ思うことがある。いま、出版不況書籍不況雑誌不況と言っても、それでも売上を伸ばしている書店はある。前々年とかのリストラが効果を上げている会社もあるし、積極的な出店展開でシェア・売上ともに伸ばしている会社も。
 そういう成功している会社こそ、気をつけないと、と。失敗しないとイノベーションできないのが普通の人間だ。いや、失敗しててもイノベーションから目を背けることがある。成功していながらイノベーションしようとすることがいかに難しいか。
 書店には、どうか愚かな出版社の轍を踏むことがないように、と思うのだ。イノベーションにつながる小さな芽を見逃さないでほしい。若い人たちの間から出てくる、また自分の中にある変化のタネを大事にしてほしい、それを育てて変化してほしい、と思う。働き者がバカを見るようなことがあってはならないと思うから。
 もう一つ、今日「第9地区」を見て思ったのだが、企業というのはときに獰猛、ときに残酷だ。利害関係の罠に絡め取られると、ウソをついたり、人を傷つけるようなことにも鈍感になってしまう瞬間がある。だがそれは人間の尊厳を失わせる。尊厳のないところに幸福はないと思う。給与が下がるなら、せめて尊厳を取り返せ、そして人間らしく力一杯働けよ、と思う。辞めていくやつは勝手だよな、と思うだろうが、ここを見据えてやれるかどうかって会社再生の鍵なんじゃないか?
 この日、同期会はいったん解散した後、日付が変わっても数人でぐだぐだ飲んでしまった。ひさしぶりにぐだぐだやったのは楽しかった。あまり酒を飲んではいかんと思うのだが、この日の酒は美味かった。いや、酒が美味いっていうのは、一緒に飲む人たちが楽しいってことなんだな、こんな単純なことを意外に忘れてるもんだな、と思ったのだったよ。(つづく)


 ←映画が面白いせいか、Amazonのレビューも非常に読み応えあります。