新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

『グーグル秘録 完全なる破壊』(文藝春秋)を急いで読む

 昨日、宅配便を受け取った。差出人は「文藝春秋・S山」さん。むー、知らない人だぞ。開封したら、本が入っていた。『グーグル秘録 完全なる破壊』(ケン・オーレッタ著、土方奈美訳。文藝春秋) 9784163725000 。
 手紙が入っていた。「ブログ、毎日拝見しています」。なんだと! たぬきちがどこの会社のこと書いてるか、どこで働いてるか、この人は知ってるというのか! なんたる不覚。
 …って、みんなご存じなんですかね。ちぇっ。まあいいや。
 しかしいきなり素の僕に宛てて送りつけられたのはかなり意表を衝かれたのであった。大胆至極、なんたる不届きな所業。できるなお主。
たぬきちさんであれば、絶対にこの本に興味を持つのではないかと思い、お送りする次第です。本書は言ってみれば、地球規模の『リストラなう』です」。
 おおー、そう言われると読まねば! と気持ちが一瞬で盛り上がる。そういえばこれ、昨日行ったどこの書店でも新刊平台で山積みになって、しかもけっこう減ってたしな。
 昨日は飲み会が二つあって深夜まで飲んでしまい、脳がだいぶ酒精漬けになってしまったのだが、土曜の午前を利用して急いで読んだ。ていうか読みながらこれ書いてる。こんなのはじっくり楽しんで読むべきじゃない。自分にとって大事な何が書いてあるのかを探すことだ、と信じて死ぬ気で速読する。速読苦手だけど。


 よく練られた本で、肝心なことは冒頭、第1章にいきなり書いてあった。

守旧派広告業界人の言葉)
「どうすれば広告がうまくいくかなど、知らない方がいい。知ってしまうと、特別なオーラを身にまとって神秘性を売っていた頃ほど高い料金を請求できなくなる」(p.24)
バイアコムの社長は)グーグル経営陣を見据えると…半ば本気でこう言い放った。
「君たちは魔法をぶち壊しにしているんだ!」(p.25)

 グーグルがなぜ伸びたか、なぜ既存のメディア産業に対して向かうところ敵なしで勝ち続けてこれたか、その理由がこの一文に集約されている。グーグルは世界中を検索し集約し可視化することで「まあよくわからないけど、良さそうなのでお金払いましょう」とゆー感じの従来型ビジネスのウソを暴いてしまったのだ。そう思った。
 グーグルの強さの源泉は「正直さ」にあるんじゃないか?
 本を読むときにアタマのほうで、あるスキーマ(枠組み)を作ってしまうのは良くないことだと思うが、第1章はそんな躊躇を跳ねとばすインパクトがあった。しかも「正直であること、ウソをつかないこと」は最近の僕のテーマだ。僕がこのブログを始めて学んだことだし、あるいは仕事をやってきて苦しかった経験もこれに関係してる。(仕事で苦しいのは、たいてい、ほんとのことを言えない葛藤とかですよね?)
 もう一つ、心を打つ一行があった。

著作権を侵害する動画がYouTubeに上げられている、と主張する権利者に対してグーグルは)
「彼らはあなた方のファンクラブの会長ですよ。それでも摘発しますか?」(p.391)

 グーグルの強さはここにもある。価値の源泉は何か、誰がコンテンツに価値を与えるのか。それを見抜き、妥協や打算をしない。見てくれる客がいるから価値があるんじゃん?という子どものような素朴率直な問いかけの、なんと破壊力のあることよ。


 正直さ・率直さを軸に、強大な技術力で武装したグーグルが、次々と世界を席巻していく様が本書では縷々述べられている。グーグルに浸食される側の発言・行動ももちろんきちんと書いてある。だが浸食される側の言い分はおしなべて力弱い。シンプルで強力なグーグルの行動原理に対して、既存メディアは自分たちがなぜ強かったのか、自分たちの価値が何だったのかに気づかずにグーグルと向き合い、負けていってるようだ。
 徹底的にユーザに利便を提供しようとするグーグルの技術者にとって、ユーザの利便を少し損ねてでも儲けを取らなければ生きていけない既存企業など、敵ではない。僕らユーザも、一人一人は既存企業で働いている“浸食される側”であるにもかかわらず、グーグルが提供してくれるサービスなしには生きられなくなってきている。グーグルの真の敵は何か?というテーマにも近づこうとする本書の後半はとくに興奮する。
 話は変わるけど、僕は『属国・日本論』に代表される副島隆彦さんの言論のファンだ。副島さんは小室直樹先生の弟子で、マジで自分を“現代の吉田松陰になる”と規定して生きている学者だ。いやー、大好きだ。
 副島さんは二〇〇〇年の著書『堕ちよ!日本経済』のなかで、日本の生産力を「ジャガーノート」とたとえた。インド神話の破壊神のことらしい。「日本企業が休止している設備をフル稼働させてモノを生産すれば、世界のモノの価格をすべてぶち壊す破壊力を発揮するだろう」と。
 時代は移り、残念ながら日本の生産力は中国やアジア諸国に追い抜かれてしまい、眠った力を再び発揮することはたぶんなくなってしまった。いま「ジャガーノート」なのは中国の生産力だろう。
 そしてもう一つ、いま世界を破壊して回っているのは、間違いなくグーグルだ。リアルタイムになんでもデータを揃え、ワールドワイドに価格を平準化させ、魔法や幻想のベールをことごとく剥いで回る。世界を破壊する力を秘めた幼稚園児? 大友克洋『AKIRA』みたいな。でも、そのアキラが実はけっこう聡明で、というイメージかな?
 強大なグーグルに、日本のちっぽけな出版産業がどう立ち向かったらいいのか。いや、小さくて正直な出版社はグーグルの原理に合致して生き残れるかもしれないな。問題は、「魔法・幻想」を武器にしてきた大手出版社じゃないか……なんてことを考えずにいられない本なのだった。オススメです。さて、続き読むか。
 ちなみにカバー剥がすと表紙はクロス装でした。リッチ! でもきっときちんとコスト設計されてるんだろうな。こういう本は新聞書評でガッと動くので、そのとき読みたいと思っても店頭で品薄、追加注文しても重版待ち、なんてことがあると思います。旬なテーマですし、お早めにお求めになるといいと思いますよ。