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新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

リストラなう!その17 葛藤、二次募集

 相変わらず奇跡のような盛り上がりを見せているコメント欄、今日も絶賛炎上中……と思いきや、意外に静かですね?
 昨日は「親会社」の方が出てきてくださいましたが、今日はどんな方がお見えになるのでしょうか。サプライズゲストも毎回充実した「リストラなう」、それではいってみましょう!


■いきなり脚光、四十代編集組はどうする?
 先週金曜から二次募集が始まっていたらしい。僕は会社を休んでいたので正確なとこを知らなかった。
 一次募集で対象になったのは五十歳以上の全社員、四十歳以上の営業・管理部門。ここから計三十九名の応募があったという。発表から募集締切まで一次募集はずいぶんと長かった。募集開始から締切までは七日間だが、それ以前が長かったからね。僕も募集期間の前にフライング応募したわけだし。
 だからたぶん、一次募集の対象者だった人で、これはという人はみんな応募してしまったんだと思う。期間延長して二次募集しても、もうここからは応募者は出ない。
 今回の実質的な対象は「四十歳〜四十九歳、編集職」だ。ここから十一名の応募者を募っているわけだ。
 彼らはついこの間まで「俺たち関係ねーし」と思っていたかもしれない。あるいは「この機会を待ってたのに、なんで対象じゃないんだ」と歯がみしてたかも。実際そう言ってる人がいる、という話も聞いた。
 それが突然、先週の金曜から「君らも考えてね」「絶賛募集中」になったわけだが、これはちょっと心理的にしんどい状況だと思う。突然当事者になる、というのはどっきりカメラみたいなもんじゃない? 客席にいたはずなのに気がつけば壇上でスポットライト浴びてるなんて。
 辞めるか残るか、考えなきゃならない。だがもう募集期間は始まってて刻一刻と時間は過ぎる。考えるために、身辺とか財産とか家庭のバランスシートとか整理しなきゃいけないものはたくさんあるのに、手につかない。あと十一人という枠も微妙だ。明日にでも埋まってしまうかもしれないし、いつ出そうかと様子見している同年配が何人もいるかもしれない。相手が見えないチキンレースのようだ。
 そして、言いにくいことだが、彼ら編集組は僕ら営業組よりも悩みが深いのではないか、と思うことがある。その理由は……じつは編集と営業との間には、微妙だが給与格差があるのだ。


■会社保証の住宅ローンは諸刃の剣だった
 もうよくご存じかと思うが、この会社の給与は世間一般と比べるとずいぶん高い。外資なんかもっとべらぼうに高いとこあるよ、と言われる向きもあるかもしれないが、ここは外資じゃないし、外資とは仕事の強度が違うだろう。厳しい職場もあるけれど、他を見ると実際こんなに高給取っていいの?と思うこともある。このブログも、それを見抜いた読者から大きな批判をいただいたわけで。
 そんな中、会社内にも微妙な格差が生じ、感情的なさざ波やしこりが生ずる状況がある。
 たとえば、この会社で最も高給を取るのは時間外労働の多い雑誌編集部の人間だ。反対に営業・管理系の人間は時間外は短めだ(職務による個人差はある。また広告は編集部並みのハードワークだったりする)。
 なんとこの会社には能力や実績によって給与が変わるという仕組みがない。基本給は年齢で決まり、実際の給与の額は時間外労働の長さで決まる。賞与にほんの少し査定額が入ることがあるというが、自分が上司にどう査定されているか宣告される機会は非常に少ない(年に一度面接がある決まりだがここ一年は受けてない気がするぞ?)し、査定額がいくらかも知らされていない。
 つまりこの会社は、職種・責任に関係なく、時間外労働の時間で給与の多寡が決まるのだ。
 書いてて「変な会社だな」と自分でも思う。変だよね。
 だからまたまた変なことが起きる。たとえば、編集から営業・管理へと異動すると、給与額がぐっと減ってしまうのだ。時間外をフルにつけていた(四十時間くらいまで時間外手当の時間給は高価だが、そこから先は極端に安くなる。七十二時間を越える分は翌月に繰り越し、だったかな? その頭打ち部分までを「フル」と称している)編集職が、時間外のほとんどない営業職に異動すると、年収ベースで三割くらいが失われることもある。「大変困る、だから組合でなんとかしてほしい」と言われ、組合執行部が目を白黒させたこともある。組合は「会社にかけあって時間外労働を減らそう」という立場だからね。
 編集の平均給与、営業の平均給与といった数字は存在しないが、個人個人に話を聞くとほとんどが「編集から営業に行くと手取りは下がる」と答えるはずだ。実感として格差は存在する。また、ごく少数だが、営業では時間外の申請を調整される=サービス残業をやんわりと強要されることがあるらしい。らしいというのは僕は直接見聞きしていないからだが、僕も一度「始業前の早朝に来て働いても時間外をつけてはいけないよ」と言われたことがある。早朝に働くのは効率がよい、という話もあるんだがねえ。
 で、なんで時間外のようなテンポラリーな収入が、異動でなくなってしまうと困るのか。
 それは、時間外手当を恒久的な収入とカウントして、消費レベルを決めてしまうからである。
 本当は時間外なんてテンポラリー=一時的な収入なのに。これが未来永劫続くような気になるのは、雑誌で働いていると起こしやすい錯覚なんだと思う。
 多くの高給取りが犯してしまう間違いが、毎月MAXな給与を受け取る前提で住宅ローンを組むことである。
 僕と同世代かそれ以上の同僚はほとんど住宅ローンを抱えている。借家住まいの同僚は僕を含めて四人か五人しか知らない。この会社は積極的に住宅ローンの便宜を図っていた。退職金見合いの貸し出し、利子補給など。昨年、賞与(一時金=ボーナス)が大きく減ったときはボーナス払いローンの返済が滞るのを防ぐための貸し出し臨時措置も行っていた。住宅ローンのボーナス時返済はとりわけ多額だから。
 住宅ローンを組むのを会社が助けてくれるのは、古き良き日本企業の美風だった。会社から金を借りた社員は会社への忠誠度を高める、というわけだ。たしかに、僕のようにローン持ってない人間は腰も頭も軽いので、こんなブログを書いてしまうわけだナ。
 ある同僚は住宅ローン補助の申請をしてもらったとき、総務部の同僚から「もうこれで君も会社辞められないね。ふふ」と言われたという。また「もっと高いローンも組めるのに。どうする?」とも。
 これは総務部の担当者個人の感想ではないだろう。おそらく、会社の姿勢が無意識ににじみ出た台詞だと思う。確たる根拠はないが、会社には社員に金を貸そうとするモーメンタムがあった、強くそう思う。
 それが今のリストラ状況では逆のモーメントになっている。住宅ローンを抱えた社員はものすごく躊躇・呻吟しているのである。
 会社への忠誠度を高め、会社を辞めさせないための制度が、社員をきっちりと縛っているため、今逆に社員を辞めさせられない……。


■残るも地獄?
 廊下で、編集職の先輩社員を見かけた。彼も今回の二次募集で対象となったクチだ。
「ほら、前に編集にも制度があれば辞めたいって言ってましたね、どうなさるんです?」
「いま残債を計算してるとこなんだよ。あと弁護士に財産洗わせなきゃ。っても借金ばかりだがね。減らさないと」
「残るとしたら、新しい給与でローンは大丈夫なの?」
「それ問題なんだ。減った給料でどんな返し方ができるかも銀行に相談しなきゃ。うちの所有権ってけっこう複雑でね…」
 僕はずっとアパート住まいなので住宅ローンのことをまったくといっていいほど知らない。だからディテールは理解できないことが多いのだが、この会社では、住宅の価額が同じ場合でも、できれば毎月多めに、ボーナス返済も併用して、なるべく短期で返せるようにローンを組む人が多いようだ。
 これだと、好調なら毎月の返済額の少ないローンより早く完済できる。
 だが、毎月の給与が減るようなことがあると、返済計画がとたんに危機に瀕する。前の「時間外が減ると困る」という発言は、こうしたローンがらみの事態の反映なのかもしれない。
 ローンの借り換え、自宅の転売……いずれもなかなか難しい。転売できないときは自宅を賃貸に出して、自分たちは安いアパート住まいになる……それって今の俺だな。貸してる物件はないけど。みんな住宅買わなきゃよかったのに。
 今回の騒動の給与縮小が、今回の25%減くらいで落ち着けばよい。
 落ち着かなかったらどうなるか。住宅ローンが破綻して自宅の投げ売り、賃貸・分譲市場のいっそうのデフレ化、景気回復のいっそうの遅れ……となろーか。ミクロからマクロに話が飛んでしまうが。
 ローンを抱えて残ることはいっそうの不安をかき立てると思う。このブログで茶々を入れるように扱ってよいものじゃないかもしれない。だが、よく言われる「去るも地獄、残るも地獄」のような状況になってきたと思う。いや、「去る」場合は手厚い退職金がある。今回は。次回は、これほどの退職金は出ないんじゃないか?
 先行き不透明ななかで、必死で考えてる編集者がきっといるだろう。納得できる決断をすることができればよいのだが……。(つづく)