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新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

リストラなう!その16 書店の若い衆たちと

 ごぶさたしておりました。コメント欄大好評炎上中、バズってしまってさあ大変、のたぬきち日記でございます。
 久しぶりに体重計に載ってみますと、なんと65kgで以前より3kg減! どうしたことだ、最近はウォーキングもサボりがちなうえこの週末は酒飲んで遊びまくったというのに。……そういえば、毎晩ブログ書くようになってから体重はかってなかったんだな。ということは、ブログを書いて痩せたのか?
 これは企画になる! 名付けて『炎上ブログ・ダイエット』!(別名『書くだけダイエット』)。どうだ! これなら中国製の付属品のせいで搬入日が左右されるなんてこともないぞ! この企画で書籍化・映像化・ドラマ化をご希望の出版社様は当エントリのコメント欄に「書籍化希望」とコメントをお寄せください!
(なお、コメント欄にメールアドレスを書かれても小生はメールを差し上げませんよ。いちおう匿名で書いてますので「釣り」を警戒しています。連絡がほしい方は、Twitterで@tanu_kiをフォローしていただいた上で、「@tanu_ki」で始まるmentionを投稿してください。「DM送りたいので」とかって。速攻でフォローしますので、その後「@tanu_ki」宛にダイレクトメッセージで個人情報のわかるご連絡先をお寄せください)


 ……などと空元気を出してみましたが、その実、コメントを読んでは毎回凹んでいます。辛辣で、歯に衣着せず本質をズバリと突いて容赦のない名文の数々に心折れまくりです。
 先日のエントリ「その15」では、自分がまた間違ったことを書いてしまったことに気づかされました。「デザイナーの口車に振り回されないでください」という一文ですね。これは、間違っています。
 小生がこれまでおつきあいしたデザイナーの方々は、いずれもこんな「口車に乗せる」タイプは一人もいませんでした。デザイナーの方々は、あくまでも編集が要求することを解決するよう働いてくださるわけで、成果物の最終的な責任はデザイナーではなく編集にあります。だから、駄目なデザインの本が出たとしたら、それは編集と、最終的にそれを認めた営業(我々)に責任がある。
 多くの方々からご指摘いただきましたが、この会社では営業と編集のコミュニケーションが大変悪いです。営業からの懸念は何一つ伝わらず、唯一意見を言えるとしたら「部数提案」のときだけ。だから編集は逆に「この部数は適切なものじゃなくて、何か意図的に減らしてるんじゃないか?」との疑念を持つかもしれませんよね。とにかく全体にコミュニケーションのチャンネル・回数が少ないためきちんと議論がなされていない状況があります。
 終始、営業が企画にコミットし、いっしょに育てて市場に出すようにしないと、この会社の再建は難しいかもしれませんね……。
 それはそれとして、今日は、更新を休んでた間に久しぶりに会った書店の面々のことを書きます。


■チェーン、版元を限定しない飲み会
 僕が担当していた地域の一つに、いろんな書店の若手がチェーンの違いを超えて仲が良いところがあった。彼らが主宰する飲み会に行くと、一度にいろんなチェーン、店舗の若い現場担当者と会えるのでたいへん効率が良い。また版元の営業マンも他社といっしょに参加することがあった。そうすると版元負担の飲み代を折半できるので経費的に大きなメリットがあったのだ。
 効率が良いだけじゃなかい。大チェーンの書店員と、三代続く老舗の若旦那がいっしょに飲んだり、チェーンの社員でも社風の違いが際だったり、帳合(取次)が違うと仕事にどんな影響があるかといったことをお互い情報交換する、非常に興味深い集まりだった。また、作品とはなんぞや、仕事とはなんぞやといった青臭い議論に口角泡を飛ばすこともしばしばで、じつに楽しかった。僕は彼らと接していると若いエネルギーを吸ってちょっとだけ肌が艶々になるよーな気がした。
 今回会ったのはその中の数人で、僕のわがままで集まってもらったのだった。来てくれたほとんどは僕が退職することを知っていた。だから言ってみれば僕が頼んで自分の送別会を開いてもらったわけだ。いや、言ってみればじゃなくて事実そうだ。恥ずかしいことだ。だが彼らはそんなこと意に介さず、シフトを終えた順に飲み屋に現れた。
 いちばんベテランのヨーコさん(仮名)がオリオンビールのジョッキを空けながら客に頼まれた探し物の話をしている。
「“入院中の家族に贈る本は”っていうの。だったら患者さんは若いのか年なのか、病状は重いのかそうでもないのか、どんなのを贈りたいのかって聞いてアレを選んだわけよ。そしたら“ああ、二千円もしなくていいわ”って。なるほど、欲しいのは文庫なんだわと……」
 書店員のことをGoogleの化身とでも思ってる客というのはいまだに多くて、とくにヨーコさんはこうした客を吸い寄せてしまう。先週の新聞広告、著者名は頭が「さ」しかわからない、なんて難問がざらだ。そしてヨーコさんがまた嬉々として難問を解決していくのだ。


■書店現場から見た出版界の諸問題
 高杉君(仮)は街の老舗の若旦那だが筋骨隆々の体躯と魁偉な容貌で異彩を放っている。だが店のレジに立つときは客の一人一人とまめにコミュニケーションをとっている好青年だ。
 高杉君の店は地域の客から愛されているが、やはり規模は小さいのでつねに業界動向に注意を払っている必要がある。同業者のみならず取次・版元事情にも詳しい。情報収集だけじゃなく、声も上げる。去年の取次親睦会でも何事かいろいろ訴えたり議論をふっかけたりしていた。彼のこうした振る舞いには老舗の大物社長たちも“うるさいなあ”と言いながらも一目置いていて、上の世代から“元気で見所があるやつ”と愛されているふしがある。この辺、インディペンデンスの気概と迫力を感じて好きだ。
 久坂君(仮)吉田君(仮)は大面積のチェーン書店の同僚でそれぞれ文芸とビジネスを担当している。高杉君とは同い年なので仲が良いが、三人の立場・視点はかなり違うので激しい議論になることもしばしばだ。彼らの店は膨大な在庫が特徴で、彼らは自分の担当分野のエキスパートになろうと日々研鑽している。業界動向には詳しくないが、自分の担当分野の動きには敏感だ。高杉君が一冊一冊の内容や文脈は得意じゃないのと反対に、二人は徹底的に内容・文脈を分析・把握して棚を作っている。
 何度目かの乾杯の後、左側にいた高杉君がささやいてきた。
「このリストラって、親会社の意向はあるんですか?」
「いや、それは知らないな。むしろ銀行なんじゃないの? 発案したのは銀行系だっていう噂だよ」などと出所不明の業界話に花を咲かせる。
 右から久坂君も話しかけてくる。
佐々木俊尚さんの本読みましたよ。“コンテキスト化”を目指して棚を作ってみようと。文芸棚なのに半分近くが文芸じゃなくなっちゃうのが悩みです」と発注リストを見せられる。ああ、たしかに著者名あいうえお順の棚より管理が難しそうだが、プチ松丸本舗って感じの品揃えだ。
「結局、リストラしても出版社の問題は消えてなくなるわけじゃないでしょ」高杉君が断言する。
「新刊点数が増えすぎてること、返本率を下げられないこと、正味を変更して買い切りにさせられないこと。うちは努力して返本率三十何%をキープしてるけど……君らの担当ジャンルはどないやの?」
「僕のとこもなんとか四十は切ってる。でも吉田のとこは多いよな」久坂君がいたずらっぽく話を振る。
「なんだと! たしかに俺のとこは四十越えてるけど何か!? あれはD社の新刊配本がすっごく多くて各五入りの売れ一とかだからしょうがなかったんだ! それを!」吉田君が久坂君に食ってかかる。二人の激しい議論というより掴みかからんばかりの言い合いに呆れながら高杉君がささやく。
「結局ねえ、キンドルだのアイパッドなんて関係ないんスよ。それより新刊点数を落として、返本率を下げること、でしょ?」
「新刊点数はなかなか減らせないね…。粗利を取るためには出すべし、ってなってる感じ。でも正直、少部数の書目は電子書籍にまかせて、きちんとした本だけ紙で出したいよ。どう思う?」
「また電子書籍ですか。そんなん、書店を“抜こう”っていうだけでしょ。もう直販でも何でも勝手にやってください。そういうリアル書店のほう向いてない版元の棚は書店からなくなりますよ」
 まるで攘夷論者だ。だが彼の強硬論は聞いてて気持ちが良いのと、ある種の現場的リアリティがあるので僕は無視できないと思っている。
「じゃあ返本はどうするの。絞って絞って配本すれば当面は売上が立たなくなるし、各一とかで配本される本はなかなか動かないだろう?」
「だったら直販はどうなんですか。ミシマ社とかそうですよ」
「取次を通さないの? 条件はどうしてる?」
「正味七十%、注文数満数出荷、随時返品可能ってホームページに書いてありますよ。そんなんも知らないんですか。僕は自由が丘訪ねて行きましたよ」高杉君は本当に勉強熱心だ。
「うちの規模で全書目で全書店に初回指定取るのは無理だな…」
「正味をどうするか検討できないんですか。そうすれば直販・買い切りも可能でしょ」
「でも取次分の八%が書店に行ったとしても、通常なら返本できる本のコストを支えられる?」
「だからそれは企画を一つ一つ精査して、思い入れがある本だけ出して丁寧に営業すれば」
「全部の本に思い入れがあるなんて、ありえるだろうか。全部特別ってことは特別なものなんてないってことじゃ?」
 こういう話はぐるぐるしがちだ。酒も入っているし。あわや久坂君と吉田君がつかみ合いのけんかになろとしている。ちょっと目を離していたら高杉君も別のメンバーと論争になってしまった。
「週刊Dなんか過半数がネット販売なんだろ? だったらそっち向いてる版元には書店から“要りません”って言ってやればいいんだよ!」
「おいおい、ディスカヴァー21とか電子書籍に熱心だけど、ディスカヴァーの本もう要らないって言えるのか」攘夷論者もこれにはちょっとたじろぐ。
 こんな感じで飲み会の夜は更けていく。


■これからどうする? お互い
 一同、しっかり酔いが回った頃、高杉君に尋ねられた。
「辞めたらどうされるんスか。他社に行くんスか」彼は体育会系なので年長者に気を遣ってくれる。
「さあ…まだ全然決めてない。実はブログをやってて、それが今ウケてるので、退職の日までは続けようと思ってて」
「僕らに何してほしいですか?」久坂君が右から入ってくる。
「そうねえ。何か業界ぶっ壊すようなことやってほしいなあ。いますぐに」
 僕は、深く考えずに始めたブログが思いもよらず多くの人に読まれるようになって、一つだけ確信を持った。誰だって一つはキラーコンテンツを持っている。これだ。
 キラーコンテンツを弾けさせるコツは、途中で止めないことだ。それだけだ。
 僕が周囲や知らない人からの助言を受け容れて、たとえば年収の金額を公開しなかったら、このブログは今頃一日の閲覧者数十人くらいに戻ってたんじゃないか。そうすれば、会社の人も安心して“たぬきち”を罰することができるだろう。だが無視できないくらい注目を集めてしまった今、“たぬきち”でいるのは意外と安全だ。
 そして“たぬきち”ブログのすごいところは、コメント欄に本当に大勢の人が素晴らしい知見を残していってくれることだ。“たぬきち”自体は低い水準のものしか提示できていないが、周り中で寄ってたかってつついているうちに、けっこうすごい集合知が生まれつつある気がする。
 だから僕は、世界を変えたい、業界をぶっ壊したいと思っている若者にも、ぜひブログを書くのをおすすめしたい。君が知ってる、君にはありふれた情報も、ありのままに公開するだけで誰かが価値を発見してくれる。そういう時代になったのだ。
 そしてキラーコンテンツは、“ちょっとイヤな感じ”がするところにあると思う。
 たとえば返本情報。僕は、「この本はなぜ売れなかったのか」という情報があれば、相当なニーズを呼ぶと思う。だからたとえば、返本作業をするとき、適当な一冊の書誌情報をメモして、「この本が売れなかったのはどこに原因があると思うか」を140文字くらいで残していってはどうか。返本全部についてやるのはしんどいので一日一冊か二冊でもいいだろう。週に五日やれば十冊になるよね。月だと四十冊だ。(この調子で数えていくと返本の多さで気持ちが悪くなるのでよそう)
 売れた本のことはいろんなひとが述べる。でも売れなかった本は人知れず消えていく。それを誰かが記録に残していけば「売れない本」のデータベースができあがると思いませんか。「売れない本」の傾向がわかれば、すごい。
 こう言うと「そんなの見なくても売れるか売れないかはわかる」なんて言い出す人がいる。わかってない。定点観測の凄さとか、データの蓄積が持つ重さがあるはずだ。返本された本の書評ばかりが載ってるブログがあったらちょっと怖いが、「本のデスブログ」みたいでかっこよくない?
 もちろん、そこに自社の本を載せられた版元はイヤだろう。だが、そういう狭い世界での斟酌をせずに続けるべきだ。狭い世界に気を遣うのを止め、周りの人に嫌われるのを厭わなければ、はじめて遠くの誰かに言葉が届くんじゃないか。
 そんなことをぼーっと久坂君に伝えると、彼はこう言ってくれた。
「たまには大口叩いたっていいよね? 狭い世界なんか打破してやりましょう!」


 その夜は店を変えて午前三時まで飲んでしまった。僕はいろいろ餞別までもらってしまい、みんなの街を後にした。担当になって二年とほんのちょっとだけど、夢のように楽しい臨店だった。僕はあまりというかまったく優秀ではない営業マンですが、よくしてくれてありがとうございました。
 明日からの週は、また早期退職に動きが出るかもしれない。僕個人の状況も激しく動いてくるかもしれない。

 とりあえず、6月の予定は一つもないが。