新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

リストラなう!番外編 担当書店さんへのメール

 こんにちは。今日は「リストラなう」日記を書き始めてから初めての週末です。
 はぁ(溜め息)……今週はあまりにもスリリングな日々を過ごしてしまいました。退職することを決めたこと。それをブログに書いちゃったこと。それが思いもよらず大勢の人から読まれるようになったこと……。どれも、これまでの人生で経験しなかった出来事でした。
 とくに、紙の本とは比べものにならない、みなさんからのレスポンスの早さ・多さに驚きました。力づけられました。時代は変わりつつある、と激しく実感した一週間でした。
 今日はちょっと身体を休めたいので、テヌキをすることをお許しください。別の書き物を掲載してお茶を濁します。だから「番外編」。


 僕の仕事は書店営業、とくに書籍の販売促進です。いくつかの書店チェーンと東京都下西郊・中央区千代田区・そして兵庫県の書店さんを担当しています。どの地区もいろんな思い出がありますね…営業はホント楽しかったです(って、まだ終わってないって>自分)。
 ふつうは営業中のお店を訪ねて(臨店)注文を取ったり、チェーン本部の営業推進部や営業本部の方と打ち合わせしたりしてます。でも去年から仕事が増えて、なかなか臨店する時間が取れなくなってしまいました。そして僕は半端な営業マンでして、巧みなセールストークとかで注文を取るのが苦手なのでした。これは何とかしないといけない。
 そこで、僕はメールを使ってのテヌキ営業を開発しました。
 会社では毎週一度、書籍の売れ行きを報告し、重版するかどうか検討する会議を開いています。重版する書目が決まると、書店法人の本部窓口宛に「重版情報」と題したA4一枚のExcel書類を送っていました。これは僕が営業部に異動してくるずいぶん前からやっていたようです。
 僕は二年前にこの書類を作る担当になったのですが、僕はこれをこっそり、法人窓口だけじゃなくて、自分が担当している個別のお店・担当者個人宛にメールしちゃうのです。
 最近の名刺には必ずメルアドが印刷されています。書店さんの名刺にお店や個人のメルアドが入ってることはまだまだ少ないのですが、それでも先進的なチェーンでは社員一人一人にメルアドを用意するところが出てきました。一人一人にメルアドがなくても、大抵お店で共用してるアドレスが一つあります。名刺に書いてなくても「メルアドあります?」と尋ねれば教えてもらえます。ここに、メールを送っちゃうのです。
 最初は特定法人の数十人から始めたメール営業ですが、二年の間に二百五十店/人くらいまで増えました。これが、けっこう気持ちイイ。
 最初は重版した書目の解説とか、在庫状況をお知らせするだけのメールだったのですが、そのうち調子にのって、商品情報とは関係ない「独り言」なんてのをメールに入れるようになりました。そしてそして、肝心の重版のお知らせよりも意外にこれが評判良いんですね……みんな、仕事じゃない余計な部分のほうが好きなんだなァと。僕も同じです。


 今日は、僕がこっそり退職することに決めた直後に送ったメールを採録します。テヌキですみません。たぬきのやることですからお許しを。
 実は、まだ僕は正式に担当書店の方に「退職する」って伝えていません。会社がリストラ・再建計画を開始したことは業界紙にも載ったので「早期退職を募集してるんですよ」とは言ったですが、はっきりと「僕も辞めます」とは言ってない。
 ……って、実は退職を決意した直後にTwitterで「脱藩なう」とつぶやいたことがあって、僕をフォローしてくれてた書店員さんは気づいちゃったんですがね。
 でも正式に言ってないので、奥歯にものがはさまった気分です。普段はテキトーかつノリノリで書いてた営業メールのおまけ部分がなんか重苦しく説教くさくなったりして。
 では、以下が引用です。


〈以下、3月30日のメールより引用〉

※今週の独り言
■桜が、こんなに寒い日が続くのに、果敢に咲きましたね。毎朝ウォーキングするKD川沿いには延々2キロくらいの桜並木がありますが、ED川公園の手すりとかには連日「○月○日18時〜」といった予約票?がべたべたと張り出されています。KD社のがあるなー、と思ったら弊社某編集部のもありました。昨日だったかな? 寒いのにご苦労なことです。

■ED川公園はW大学に近いので、W大の元気な若者が花見に来ます。そして毎年、誰か男子の一人くらいが必ず全裸になっています。夜にウォーキングしててよく見ました。「草上の昼食」って名画がありますが、アレの間抜けなコピーみたいです。今年も誰かお調子者が全裸になってるはずです。

■僕は地方の大学を出たので、W大やK大など私立の名門がどんなにすごい学校なのか全然知りません。会社には有名私大出身の先輩や同僚がわんさかいますが、一人一人を見ているとやはり「学校」としての凄さとかはわかりにくいんですよね。なので、僕のなかのイメージは、「W大=全裸」。ひどい短絡だ。

■でもね、僕自身お調子者なので、W大の学生でつい全裸になってしまうコを見ると、なんか「可愛いな」と思ってしまうんですね。若いなあって。バカだなあって。好きです、バカもの。(関係ないけど絲山秋子『ばかもの』も大好きです)

■やっぱり、こんな仕事してるんだから、バカな部分を持ち続けないといけないな、と最近思うんです。アップルのスティーブ・ジョブズスタンフォードで行ったスピーチのしめくくりは、「ハングリーであり続けよ、バカであり続けよ」でした。

■僕がこの会社に入った20年前、バブルの頃、業界全体を挙げてバカ騒ぎをやっていました。バカであれ、ていうのと、バカ騒ぎ、というのはだいぶ違うのですが、でもまあ、静かにわだかまってるよりはマシかなと思います。そう、最近うちの会社は静かにわだかまってるよーな感じだゾ、元気がないゾ、と思うのです。元気出さないと。バカやらないと。

■今週末、アメリカではジョブズの最新作「iPad」が発売になります。アメリカでは電子書店機能を搭載してのリリース。日本では4月末発売、電子書店機能は未搭載、ということですが、それでも非常におもしろいメディアになると思います。

■M善の店員さんがツイッターでつぶやいてたんですが、「うちの社長はKindleiPadなどの電子書籍は率先して使えとといっている。実際に使ってみて、紙の本と電子書籍を比較し、書店として何ができるかを考えろっていってた」…至言だと思いませんか!? すごいですよ。O社長、お会いしたことはないけれど、見識と確信のある方だと感じますよね。

■もう一人、目を見張る経営者が、角川書店角川歴彦さんですよね。著書『クラウド時代と〈クール革命〉』をwebで無料公開したのは卓見。ま、全部読むのはムリでしたけど。めくるのが大変なんだよなー。フリーミアムの実践が成功だったかどうかはさておき、角川さんやっぱすごいっす。春樹さんもすごい人ですけど(映画人としての春樹さんのファンです)、歴彦さんもすごい。さっさとやっちゃうとこがすごい。

■スピーディに、さっさと挑戦する、そんな姿勢でいないとこれからの業界大変革を生き残れないゾ、がんばれ会社、がんばれ自分。と思います。電子書籍は見かけ上、書店のライバルになる、中抜きになる、音楽におけるCDとiTunesのような敵対関係になる、という警戒感をもって見られているかもしれません。「週刊ダイヤモンド」が電子出版特集を没にした、という噂を聞きましたが、それもこういう警戒を気にしたのかもですね。

■でも、電子書籍を読むお客さんは絶対に、紙の本も大好きなお客さんなんです。だから、僕ら全員の利害は一致しているはずです。面白いものを追い求めたい、という一点で。

■この激変の時代に僕たちが何をできるか、まだ漠としてわかりませんが、とりあえず、キャッチアップのためのアンテナだけは磨いていきたいと思ってます。楽しみながら。当面苦しくても、目標を見失わなければ進んでいけるんじゃないか?と思います。

 …なんだか説教くさい独り言になってしまいました。すみません。
 それにしても、去年の年末にiPhone衝動買いしたことでずいぶん物の見方が変わりました。同様の体験をなさってる方、けっこう多いと思います。業界は荒波に揉まれていますが、乱世を楽しみながら、今一度日本を洗濯する気分で、やりましょう。
 ではまた。今週も弊社の出版物をよろしくお願いします。

〈3月30日のメール、引用終わり〉


 今読み返してみても、やっぱり何か歯切れの悪い、そして感傷的なメールです。やだな。
 でも、僕はこうやって書店の現場のみなさんと、ダイレクトにつながるメール営業が大好きでした。これ出した翌日はけっこう注文もらえるんですよね。自己満足だったり、こんなふうに自我が露出してヤな感じのメールもいっぱい送ってしまいましたが、「先週のメール面白かったよ」とか言ってもらえたときは最高に楽しかったですね。
 毎週一度、アバウト二年以上続けたこのメール営業も、あと二カ月で終了です。けっこう寂しい。
 誰か会社に残る人に引き継いでもらいたいけど、これから人が少なくなることもあり、ちょっと無理かもしれません。どっか他社の人、やってみませんか? 「ctrl+R」だけで注文できるから、書店さんにもけっこう重宝してもらえましたよ。


 セコハンのネタを使い回した番外編ですみません。
 ブログでこんなふうに書くのはできるんだけど、いざ書店さんに「辞めるんです」とは本当に言い出しにくいです。この出版不況のなか、現場の店員さんと僕たち営業マンは、いっしょに戦う戦友のような気持ちでいたから、「お前ひとりで戦線離脱するの?」と言われそうで。かなしいです。
 この件については、後任の担当者が決まるまでうじうじと悩むことになりそうです。
 次はなるべくフレッシュなネタをお届けできますように。ではまた。