新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

「ハート・ロッカー」を見たよ

朝のラジオでこいつと「アバター」がアカデミー賞を争ってる、と言ってたが、まさか戦争映画だとは知らなかったよ。しかもイラクが舞台の最新の戦争映画。去年は「告発のとき」(エラの谷にて)という傑作を見たし、フィクションじゃないけど「冬の兵士」も大傑作だった。こいつはどうかな?と思ったら、残業を切り上げて見に行きたくなったんだよ。

果たして、傑作だったよ!時間前にビールを飲んだので始まってすぐに尿意を感じるという切迫した状況にもかかわらず、一度として席を立とうとは思わなかった。今回は尿意に負けなかったな、って。


舞台は2004年のイラク、主人公たちは米陸軍の爆発物処理班の3人。ある事情でチームはリーダーを失い、新しい軍曹が転属してくる。これが曲者のジェイムズ軍曹。部下のサンボーン軍曹とエルドリッジ特技兵はまだ爆発物の解体無力化ができないので、ジェイムズが腕を奮ってる間周辺を警固し彼をバックアップする。
イラクの町はそこらじゅうが戦場で、そこらじゅうに爆発物が仕掛けられている。起爆も多種多様で、携帯電話による遠隔操作だけじゃない。余談だが「冬の兵士」に地元民が携帯を持ってるだけで連行したり銃撃したりした、という証言が出てくるが、この映画見るとそれも無理ないなと思う。ともかく周りじゅうが味方じゃないのだ。このストレスたるや。
ところでこの映画の題名はよくわからないのだが、どうやら激しいストレス状況を意味するようだ。
今次イラク戦争の特徴は、この映画も描く即席爆発物(IED)、地元民とのディスコミュニケーション(と虐待)、民間軍事会社かな? 民間軍事会社も出てくるよ。民間は正規軍と違って装備が多種で、かつテキトーでマヌケな感じがよく描かれてる。この作品に関してはなるべくネタバレしたくないのだが、一つだけ言ってしまおう。ここでバレット狙撃銃が出てくるけどこの狙撃シーンはいいよ! 白眉だよ。この映画は全体に地味で重苦しいけど、ここは爽快だよ。そして泣かせるシーンでもある。ジェイムズ軍曹が地味に大活躍する。狙撃って一人じゃできないんだってことがすごくしっかり描かれる。ゴルゴに毒された僕らの観念を洗ってくれる、映画史上屈指の狙撃シーンだよ。


この映画はこうして爆発物処理チームの3人が直面するいくつかのエピソードをシーケンシャルにつなぎながら進行する。ほんとに地味な作品だ。でも良い。ていうか良い。僕は仕事を描いた映画が好きなんだな。仕事にはworkとdutyとあるが、男は後者に惹かれるのだ。
ところでこの映画の監督は女性だ。キャスリン・ビグローという名前は知らなかったが「ストレンジ・デイズ」は見てた。つまらん映画だった。あれは元旦那のキャメロンの脚本だからつまらんかったんだな。好きになりました。
あと、脚本は僕の好きな「エラの谷にて(告発のとき)」の原案の人なんだって。なるほど、序盤からいきなり好きな匂いがしたけどそうだったか。嬉しいな。
カメオで地味級スターがいろいろ出てるのもいい。僕はデイビッド・モースを久々に見れて嬉しかった。この人は軍人や警官が似合う。ガイ・ピアースはどこに出てるかわからんかったが、種明かしされるとああなるほどねと思った。こりゃわからんわ。レイフ・ファインズには笑った。こん中では一番スターだけどね。
パンフには僕の好きな本『ウォームービー・ガイド』の著者・田中昭成さんがIEDとPTSDについて解説しています。短いけどいい文です。必読ですね。
こんなにご飯何杯でもいける大好きな種類の映画なのに、昨日まで名前も知らんかったとは我ながら猛省せねば。ごめん。とても良い映画です。考え始めたら終わらないくらい深いし、ただのサスペンスとして見てもすごくよくできてる。この緊張感・重圧感はタダモンじゃない。なにせ2時間の間尿意を忘れてたくらいだからね。観客の心を操作するのが上手いんだ。この手練のワザにはまってみるのもオススメですよ!