新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

スティーブの病状とiPad

先週の木曜朝はiPad発表祭りで寝不足だった人が多いんじゃないかな。僕は水曜の晩に会社関係の飲み会があったのでやはり寝不足だった。
飲み会というのはあれだ、定年した先輩が亡くなったので「偲ぶ会」というやつだ。H先輩は享年62、とても若い。男性雑誌編集で鳴らした人で、無頼な外見と繊細な内面が対照的な人だった。家族にいっぱい迷惑をかけた生き様な感じで、定年を機に奥さんや子供に喜ばれる余生を送れるんじゃないの?て噂してた矢先の死だった。残念だ。
僕には同じように早く亡くなった年上の知り合いが何人かいる。同じく会社の大先輩Fさん、ネットで知りあったTさん、いずれも60代前半の早すぎる死だった。

スティーブン・ポール・ジョブズは1955年の2月生まれ。というと僕とちょうど10歳違う!もうすぐ55だね。ちなみに僕のちょうど10歳下はドリュー・バリモアだ。関係ないか。
スティーブもがんを患っている。去年はかなり深刻な臓器移植をしたらしい。移植のためにメンフィスだかに家を買ったとか、移植のウエィティングリストも最重度だったとか非公式情報を目にしたけど、先日のプレゼンが彼の現在を包み隠さず見せていたと思う。
スティーブはいつも黒のタートルネックとブルージーンを着て登場するが、先週の彼を見ると「なんだかかっこ悪い?」と思わなかったかな? そう、いつもの服を身に付けてるのに似合ってないのだ。痩せて体格が変わってしまってるから!
自意識過剰な彼がそれに気づかないはずないよね。それでも公開の場に出てきたのは、彼が発表する製品がとても重要なものだからだ。


ここでちょっと個人的な話を。2003年の春、僕は年上の友人Tさんを失った。享年63だったかな? 喉頭がんだった。99年の暮れに告知を受け、3年以上闘ったわけだ。
Tさんとはニフティサーブのゲームフォーラムで知りあった。プレイステーションのファン同士だ。僕に山歩きを教えてくれた。明るい人で、声帯を取ってしまっても筆談でジョークを飛ばしていた。
彼が亡くなる1カ月前、桜が満開の日に病室を訪ねた。池袋西口公園の桜をひと枝折取って(
ごめん!)。Tさんは上半身全体にがんが転移し、あちこち出血とかしているようだった。姿勢を変えることもできない。それでも枕元においたテレビを手鏡を使って見ている。折しもイラク戦争でアメリカ軍がバグダッドに向けて破竹の進撃をしていた頃だ。CNNで戦況をチェックし今後を予測する、新聞記者だからこういうことが止められないのだ。相変わらず筆談でジョークを飛ばす。とても痛々しかったけど、どっちかというとこっちが元気付けられた。


いま、スティーブががんとの闘いから生還し、彼の最新作iPadを彼自身でプレゼンして見せてくれた。去年はスティーブも病室のベッドの上で長い時間を過ごさざるを得なかっただろう。
iPadはただ巨大なiPodTouchに過ぎない、と言う人もいる。まあそうかも知れない。けど、違う。iPadは真の意味でバリアフリーなコンピュータを実現しようとする運動、その一プロセスなのだ。
iPadソニーの小さなVAIOを比べてる人がいるけど、見当違いも甚だしい。物理キーボードがないと使えないデバイスは、全てiPadの敵じゃない!そんなの眼中にないのだ。
iPadにはキーボードがない、ポインティングデバイスもない。これが何を意味するか。
画面を支えることができる場所・姿勢ならどんなとこでも使える、ってことだ。寝床でも、便所でも。仰向けでも、横向きでも。そしてiPhoneと違うのは弱視でも老眼でも使えることだ。
僕はTさんを見舞った時、もっと寝ながら使いやすいテレビやパソコンがあればなー、と強く思った。健康な僕たちが普段何も思わずに使っている機器たちは、意外と不自由を強いている。たとえばキーボードを操作するにはキーボードの大きさの水平面が必要だ。webブラウジングしてる時間のほとんどはキーボードなんて無用なのに! ポインティングデバイスも同様。Googleのアンドロイド端末がトラックボールを備えてるって聞いて僕はのけぞった。なんでそんな時代遅れの機器を実装? タッチパネルなら要らないはずじゃん?
iPodTouchを使い始めた時うすうす感じたことだけど、寝たきりコンピューティングは楽しい。ものすごく可能性がある。今も僕はこれを寝ながら書いてるし。ていうか、机に向かうことができない人ってのは実は意外と多いんだよ。忙しいとかってこともあるけど、身体的な事情のある人もいっぱいいる。そうした人を無視してきたのが今までのコンピューティングだった。
治療のために何日も病院で寝て過ごしたスティーブは、何を考えただろうか。自分が最後の日々を過ごすことになった時、どんなコンピュータを使えるか考えたんじゃないかな。


話は冒頭の「偲ぶ会」に戻る。会は故人の個性を反映して、楽しい集まりになった。疎遠になってた人といっぱい会えた。定年退職されてから会えなかったNさんもその1人だ。
Nさんはスティーブ・ジョブズと同じくらい僕の人生に影響を与えた人だ。何しろNさんの紹介で20年前の僕はMacintoshを買ったのだから。
そのNさんも病気と闘っている。僕が昔から好きだった人たちが今みんな病気と闘っているかのようだ。がんばれNさん、がんばれスティーブ。
そんなわけで、世間の評判とはちょっと違うとこで僕はiPadに期待してるのだった。ハンデキャップと闘うすべての人に、コンピュータは味方すべきだ。スティーブとAppleはこれまでもその姿勢を貫いてきた。視力障害者のための拡大機能や音声読み上げ機能はずいぶん前から実装してたし、Macintoshが生まれた時から警告音は聴覚障害者にも伝わる仕様だったように。
iPhoneでもいいじゃないかと仰るかもしれませんね。でも4倍以上の画面で見るGoogleEarthは、きっと何十倍も楽しいはずです。とくに、ベッドから離れられない人にとっては。


最後に、Tさんの闘病日記と奥さんが書かれた闘病観戦記が今でも読めるのでリンクしておきます。Infoseek[インフォシーク] - 楽天が運営するポータルサイト