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新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

香山リカ『しがみつかない生き方』——勝間和代批判はあまりなかったんだよ

 売れてる、しかも若い女性が読んでるらしい、と聞いて幻冬舎新書『しがみつかない生き方』(香山リカ)を買ってみた。すぐ読めた。正直、もうちょっと書き込んでもいいんじゃないかと思う薄い質感だったが、本文にも「とにかくわかりやすくて売れる本、ということにこだわりすぎ、その手の出版物があふれ返ったあまり、日本人の知的レベルが大きく劣化している、という説さえある」とあるのだが、その通り出版物と読者の知的レベルを下げるかもしれない質感だったけど、結論からいうと面白かったんだよ。
 
 まず、閉塞感とプレッシャーにさいなまれることが多い毎日を“そんながんばらへんでもええんちゃう?”とやんわりたしなめる感触、諦めが肝心といわんばかりの脱力感、これらは心地よいのであった。次に、つっこみ処がけっこうある著者の世相理解に失礼ながら笑ってしまって気持ちが緩んだり、あるいは自分の世相理解の歪みを嫌みでなく気づかせてくれたりした。
 それから著者も意図してないかもしれないが、雅子さまに関することは面白かった。ここは心から笑ってしまった。
 皇太子妃・雅子さまについて言及してるのは2箇所ある。一つは第2章「自慢・自己PRをしない」に「雅子さまの謙虚なもの言いと恥じらい」という節があって、彼女の奥ゆかしさが非常に好意的に評価されている。
 もう一つは第7章「子どもにしがみつかない」に、「愛子さまのことだけを詠み続ける雅子さま」という節がある。ここがすごいのだ。「歌会始」では皇族たちが御製を発表する。雅子さまは出席はしないが御製を発表し続けているのだが、それがここ6年ぜーんぶ娘の愛子さまのことを詠んだ歌ばかり、なのだそうだ。

 平成十六年(お題「幸」)寝入り前かたらひすごすひと時の吾子の笑顔は幸せに満つ→平成十七年(お題「歩」)紅葉ふかき園生の道を親子三人なごみ歩めば心癒えゆく→平成十八年(お題「笑」)輪の中のひとり笑へばまたひとり幼なの笑ひひろがりてゆく→平成十九年(お題「月」)月見たしといふ幼な子の手をとりて出でたる庭に月あかくさす→平成二十年(お題「火」)ともさるる燭の火六つ願ひこめ吹きて幼なの笑みひろがれり→平成二十一年(お題「生」)制服のあかきネクタイ胸にとめ一年生に吾子はなりたり…

 どうです? 見事なまでに娘のことしか詠んでない。すごい。著者は精神科医らしく心を病んだ雅子さまの容態を気にしているようなんだが、僕はむしろ歌会始に出席している他の皇族とかメンバーの気持ちが気になった。
 たぶん、最初の年は「ああ、よかったね、雅子は疲れててたいへんだったけど」って感じだったろう。次の年は「相変わらず病気は大変みたいだし、そんななかで子どもが生まれたのは唯一のうれしいことだろうから少しくらい空気読まなくてもいいだろ」になったかもしれない。だが次の年もその次の年も子どものことばかり詠むのを見て、周囲の人たちはなんと思っただろうか。「また子どもの歌かよ! いーかげん欠席もやめたらどうだい」「またまた! 根比べ? 嫌がらせ?」「これはもう立派な作風じゃな。欠席を貫くのも創作姿勢の一環かもしれぬ」などといろいろ周囲も血迷ったのではないか。
 そう、雅子さまの御製は、ペシミスティックに見ると、子どもの存在だけが慰めの、幸薄い、悲しく孤独な王妃の日常にしか見えない。だが、人には裏がある、人はそんなに見たままじゃない、と思って見ると、あー今年もかったるいから欠席だわよ、だけど歌は一昨日から頭ひねったのがあるから今年も一首届けとくわね、またまた娘のこと詠った歌よ〜、これでも読んでお前らあたしにした仕打ちを思い出して後悔するがいい、国民はあたしの味方だわよ〜、なんて言いながら、宮内庁御用達のおせんべいとかばりばり囓ってる雅子さま、だといーんだけどなー。なんて不謹慎な空想をするわけです。そのくらいひねくれたりブーたれたりタフだったりするといいのですが。


 僕が本書を買ったいちばんの動機は、第10章「〈勝間和代〉を目指さない」を読んでみたいからでした。効率重視、サクセス至上命題勝間和代を、現代人の弱い心疲れた心を見つめてきた香山リカが、どう批判するか、とっても楽しみだったのですが。開けてみるとあんまり批判はしてなかった。ま、そうですよね、正面切って勝間和代を批判するのって、かなり恥ずかしいことですから。香山リカのように「言わずもがなでしょ」って感じにとどめておくのが正解と思います。
 僕は「人生戦略手帳」を買ってしまうほど勝間ファンなのですが、それは笑いをとるためであったり、異人種ぶりに感嘆するためであったりします。そういう意味では面白いタレントです勝間和代。つっこみ処という点では香山リカにつっこむより勝間和代につっこむほうがおもしろいし気が楽だし。
 たとえば「1日0.2%の改善を仕組化すれば1年であなたのスペックは2倍になる」って、生物としてのヒトが加減乗除でスペックを変えることができるなんて面白すぎません? 毎日0.2%ずつ改善することで1年で肺活量を2倍にしたり、マラソンのタイムを半分にしたりできるといいね。ってそういう話じゃないってことはわかってるけど、じゃあ他に何があるの? 年収? 納税額?(これは可能かもしれないね) あるいは逆転の発想で、毎日0.2%ずつ悪事を積み立てて判決もらったときの量刑を2倍にするとか。おおこれならできそうだ。


 香山リカの本は、読むととても爽快だったりしません。むしろ、ぐじぐじと悩んでる感じが最後までぬぐえなかったり、わじわじーしてる感じのまま終わったりする、さっぱり感の少ない本ばかりな印象。ってそんなたくさん読んでないけど、大向こうウケする本は書かない人ですね。そこが好感度高いんですけど。そんななかで『しがみつかない生き方』はわりときれいに着地が決まった本だと思いました。なにより読んで気が楽になるしね。意外とオススメです。