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新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

♪どうしてクスリをやるのかな?_について考える本など

 のりピー、出頭して逮捕されて「なんで家にあったかわからないけどあったとしたら私のです」なんて自供して、逃げ回って身体からクスリ抜いた成果で尿検査は陰性だったけど、クスリ使ってました宣言にて一件落着、な雰囲気ですね。
 さて、酒井法子さんは「あぶり」と呼ばれる方法で覚醒剤を吸引していたそうですが、こんなアンダーグラウンドな行為が新聞やテレビで紹介されるなんて面白いですね。やはりのりピーは大物なんでしょう。さて「あぶり」とは、報道によると、アルミ箔の上にクスリを置いて下からライターで炙り、気化したクスリをストローなどで口から吸引する方法だそうです。覚醒剤って熱すると気化するんですねー、へー、って、こんなことは映画とかでもさんざんやってましたね。
 
 この「レス・ザン・ゼロ」は古い古い映画ですが、ロバート・ダウニー・Jrが必見の中毒演技を披露する名作です。ここで彼は覚醒剤系のアッパーをパイプに詰め、強力なライター(トーチ)で炙って吸引する、哀れな末期的患者を熱演しています。ていうかほとんど素ですかね。この後彼は長い長い闘病期?に入り、名演やら収監やらを繰り返し、何年も経ってやっとドラッグと決別します。まさに入魂の演技?だったんですね。だからこそ歴史に残る映像です。
 あぶり=吸引というのは、気化した薬をストローで吸って肺に持っていき、肺に密集した血管へ薬を溶かし、そっから脳へダイレクトに薬を流そう、という方法です。かなり効くでしょうね。それはつまり、喫煙でニコチンを脳へ持って行くのと同じ方法です。タバコを吸うと数秒も置かずにニコチンが脳に来るのがわかるでしょう? それくらいの速度で覚醒剤が効くわけですね。他に覚醒剤は静脈に注射する方法があるようです。ようですというのは僕は正確には知らないからですが。静注は速度的にはどうなのか知りませんが、強さはいちばんではないでしょうか。昔々の不良少年不良少女は覚醒剤なんか手に入らなかったので、洋酒のマスコット瓶を買って、当時は薬局で注射器が手に入ったので、ウイスキーなどを静注してました。こうするとショットグラス一杯分くらいで腰が抜けるほど酔うそうです。まあすぐに覚めるでしょうが。話がそれましたが、肺での吸引、静脈への注射、どっちも脳に与えるショックが大きいので中毒性が高いようです。とりわけ吸引は素人にも敷居が低く簡単に始められるわりに効果が強いのでハマりやすいのではないかと思います。
 比較的穏健な方法としては、粘膜から吸収させる方法があります。歯茎やほおの内側に薬を貼り付けて放っておく方法。これは噛みタバコと同じですね。スニッフとも呼ばれる、鼻で吸って粘膜に吸着させる方法。これはコカインの吸い方でよく目にしますね(僕は映画とかで見ただけで、実物は見たことナイですけど)。これよりさらに穏健なのは飲み込んで胃腸から吸収させる方法ですがこれは無駄が多い。効くのに時間がかかるし、薬量によっては効いてるかどうかも判然としないかも。なのであまり流行らないんじゃないかな。ま、素人はスニッフかあぶりでしょうね。
 なぜこんないろんな方法があるかというと、それはたぶん、薬の素性やら性質によるのでしょう。経験のない僕が言うのもナニですが、アンダーグラウンドで流通する薬は厚労省が認可したわけでも医薬品メーカーが品質保証してるわけでもありません。品質はまちまち、混ぜモノ多数となれば、いきなりそれを静注するのはリスクが高い。とするとあぶりで試したり、口の粘膜につけて他の刺激物が入ってないか試してみたりするのでは。薬の性質にもよる、というのは他の薬と違ってコカインは粘膜で吸収させるのがいちばん、と昔から決まってました。フロイトの頃からすでに。たぶんシャーロック・ホームズもコカイン吸ってましたね。気化しにくいけど水に溶けやすい、みたいな性質があるのかな。実物を知らないからわからないけど。あと、混ぜモノによっては鼻の粘膜がやられるし、それでなくても粘膜を酷使するのでスニッフする人は鼻炎を患ってることが多いみたいですね。鼻は意外に壊れやすいので気をつけねばなりません。


 すいません、すごく寄り道してしまいました。今夜はこんなこと書くつもりじゃなかった。
 では何を書きたかったかというと、「酒井法子(やその夫、あるいは押尾学)はなんで薬をやったのか」を考えるヒントを探したのです。こういう面白い本がありました。それを紹介したい。
 
 本書はこれまでに読んだ人類学っぽい本のなかでも二番目くらいに面白かったです。一番目は『ヒトはなぜヒトを食べたか』という本ですがそのことはまたいずれ。本書『ドラッグは世界をいかに変えたか』は「依存性物質の社会史」と副題がついてます。原題の "Forces of Habit" とは、「嗜癖の力」とでもいうのですかね。依存のことですね。
 この本はもちろん大麻・阿片・コカなどのハードドラッグについても触れてますが、画期的なのは、そうじゃない、ああいう違法物質どもは世界史的に見れば「リトルスリー」だ、と断言してることです。「ビッグスリー」と呼ぶべきドラッグは、アルコール・ニコチン・カフェインなのだと。いやあ大胆ですね。こんなありふれたモノがドラッグだなんて。でも世界史的・人類学的に見ればまさにその通りで、「精神に影響を及ぼす」ことを主眼に、人々が熱狂する物質をドラッグと呼ぶなら、まさに酒タバコ茶コーヒーはメジャーなドラッグなのです。これらと覚醒剤大麻・ヘロインの間には、人類学的にはあまり差異はない。
 僕はこの本を読んだとき、まだ鬱病が治りきってなくてヘビースモーカーでした。自分がなぜタバコを止められないのか、精神科の待合室には必ず喫煙室があるし、主治医も禁煙しろとは強く言わないのはなぜか、と考えたりしてました。この本には、ニコチンは精神病につきもののいらいらを抑える、とはっきり書いてあります。そう言われて初めて、僕は何か霧が晴れた気がして、タバコを止められるような気がしました。そして実際禁煙してみて、何度か失敗しましたけど、今はもう吸ってません。しかし楽しい飲み会の席では吸いたくなるし吸ったりしますけどね。楽しい席では。(その結果気持ち悪くなって青ざめたりしますが)
 ドラッグは違法で、まがまがしいもので、人間やめますかで、ダメぜったいなモノだ、と思ってる方にぜひ読んでもらいたいです。そうじゃないんです。ドラッグというか精神に作用する物質は太古の昔から僕たちのそばにあって、僕たちはそれを珍重してきた、今もそうである、という事実をまずこの本で学べると思います。楽しい本ですよ。


 
 もう1冊はこれ。アマゾンでは評価が低いですけど、僕は面白かった。『嗜好品の文化人類学』という題名はダテじゃなくて、世界のド田舎の嗜好品が次々紹介されます。酒・茶・コーヒーといったメジャーなものから、トウガラシ・ガラナ・コカの葉・大麻・コーラ・カート・ビンロウなどローカルなもの。そして中国のスイカの種・ピグミーのハチミツ・ゾウの脂・ウミガメの肉・ウシの胆汁・便汁などというゲテモノまで。最後のは「これって依存性物質じゃないよね」と言いたくなる、ちょっと嗜好品とかサイコアクティブ物質の範疇を超えてて本の狙いがぼやけてる印象もありますが、それでも楽しいカタログになってると思います。
 本書でまずうなったのは「はじめに」で「嗜好品の定義」が述べられてること。これ、参考になりますよ。とくに酒井法子さんなどがなぜ薬を経験したのかを考える際のヒントになると思います。

 では「嗜好品」とは、何か。あらためて説明してみると、つぎの六項目程度の資質をはらんでいるもののことだと、いうことができよう。 1)「通常の食物」ではない。だから、栄養・エネルギー源としては期待しない。
 2)「通常の薬」ではない。当然、病気への効果は期待しない。 3)生命維持に「積極的な効果」はない。 4)しかし「ないと寂しい」という感じがする。 5)体内に摂取すると「精神(=心)に良い効果」がもたらされる。 6)「植物素材」が使われる場合が多い。

 この定義が素晴らしいのは、「なぜ彼らは嗜好品をやりたくなるのか」「どんなときに僕たちは依存性物質に手を出したくなるのか」が、きちんと自然に説明してあるからです。そう、なんとなく「寂しい」ときに僕たちはドラッグに手を出すのです。


 酒井法子は、僕は知らなかったのですが、ママドルというんですか、今でもけっこう立派なアイドルだったそうですね。僕みたいな四十代の、往年の彼女が懐かしくてニュースを注視してしまった者だけじゃなくて、現在の彼女を評価してニュースを見入っていた人もいるんでしょうね。彼女は間違いなくセレブだった。自身のブランドも展開してたそうだし、清純なイメージは台湾と中国の両岸でも愛された。暇じゃなかったはずです。それなのに、こんなものを使わないと埋められない寂しさがあった……。ということでしょうか。
 そして今、政権党の子息たちがこのドラッグ仲間に大勢いる、と言われています。現役のトップスターたちの名前も取りざたされています。若くして大成功した美人実業家の名前も出ています。そんな社会的・経済的にものすごく恵まれた人たちが、心に埋めがたい隙間を抱えて、ドラッグに救いを求めている。それって何なんでしょうね。
 アルミ箔の上で白い煙がたゆたうのを見たとき、酒井法子は、刺激と快感と非日常を感じて恍惚としたかもしれません。僕たちが仕事の後のビールを前にしたときと同じようなグッとくる期待。それがビールとか焼酎であれば本当に良かったのに。あるいは、もっと刺激は低くなりますが、質の良い台湾のお茶とか。凍頂烏龍茶とか高山茶とか東方美人とか美味しいお茶がいっぱいありますよね。これを、心を許したパートナーと向かい合って飲む喜びを知っていれば、きっとこんなことにならなかったろうに、と思います。