新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

別冊映画秘宝『切株映画の逆襲』が微妙な件について

 会社帰りの書店で買ったんだよ。
 
 買ってすぐ、歩きながら読みたくなる本って珍しい。歩道を北上し、寺院の境内に入り、墓地を横断しながら読みふけった。…しかし、なんかピンと来ないぞ!?
 切株映画というのはそのものズバリの残虐シーン、殺害シーン、生首シーンが売り物の映画を「映画秘宝」の面々が名付けたジャンル。スリラーとかサスペンスなんてお上品なジャンルではない。このジャンルに含まれる作品は……「人喰族」「食人族」(この2つは違う映画なんです)「グレートハンティング」「ハロウィン」「13日の金曜日」「悪魔のいけにえ」「バスケットケース」とか。最近僕も見た「ホステル」ももちろん入る。「アメリカン・サイコ」や「ワイルド・パーティ」も入ってるけど、そうかな?どっちも見てるけどこれ切株かな? 何が切株認定されて何が除外されるのかよくわからない。リドリー・スコットの「ハンニバル」は入るらしいけど「羊たちの沈黙」は入らないかもしれない、とか。
 総じて僕も好きな映画が多数取り上げられているのだけど、どうもこのムック、読み進むうちに微妙な感じに囚われたんだよ。
 スリラーとかサスペンスを超えたジャンルって、僕が若かった80年代末にはショッカーとかテラーって言い方があったと思う。リップクリームのアルバムジャケットにあったよな、たしか。あの頃は牧歌的だった。特殊効果も全部アナログで、マット画だったりゴムや獣肉だったり、いずれも人の手作業だった。まあCGも職人技ではあるんだけどね。ちょっとね。そして「ザ・フライ」とか「死霊のはらわた」とか「バタリアン」とか、日々描き換えられるショック描写の限界に僕らは驚いていた。ああノスタルジー。
 けどねー、この本みたいに、ここまでショック描写に凝った映画を集めると、なんだかちっとも怖くないんだよ。カレーを作るときにスパイス入れすぎると辛くなくてただ苦くなる(先日やってしまいました)みたいなもんで。ショックって、予想もしないときに出てくるからショックなんであって、待ってましたこの描写、みたいな状況じゃちっとも怖くないんじゃないかな。
悪魔のいけにえ」も、彼女としっぽりうまくやりたいやりたい盛りの少年が彼女をなんとかドライブインシアターに連れ込んで、この後はさてどうしようとドキドキしながらスクリーンに向かっていると、突然画面にはかぎ爪フックに吊される女性の画が!凍り付く車内の男女、映画の後は人気のないラヴァーズレーンにクルマを停めてキスしたり触ったりしよーと思ってたのに、なんだこの映画は!ってことになるとショックもいや増すわけですが、「切株映画」を見るぞ!と水曜の割引TSUTAYAで勇んで借りてきて一人でDVDのトレイ開けて、なんてのじゃ怖さまるでナシ。侘びしいだけ。
 たぶんこのムック買って読んだ独身高齢男性読者のうち、僕みたいなシラーっとした感想は珍しいだろう。女性なら普通だろうね。こんな本喜んで読む男子の気持ちはわからないから。バンデラス映画の最中に席立って啖呵切った町山智浩さんの奥さんみたい(劇場じゅうの単身男性客がしょんぼりしたそうです)な反応が女性の普通です。ところがそういう女性の気持ちが最近はわかるのだ。僕は本書にのめり込めない自分自身が淋しい。のだけど、なんかやっぱりもうついていけないのは齢だからか。
 女性は、実は男性なんかよりずっと血に強い。生傷にうろたえたりしない。きっと、女性は切株映画にキャーキャー言ってる男子がバカに見えるんじゃないか。子どもっぽすぎるって(それは認めます!)。
 僕ももう、切株映画に魂が震えるような若さ、初々しさは失ってしまったようだ。それよりも怖いのは、人が人を裏切ったり、ウソついたり、過ちを犯してしまうこと…かな。今は。


 話はがらりと変わるんだけど、最近読んで怖かったマンガはこれ↓です。今僕が怖いのは、手足がもげたり斬首されたりする描写よりも、制度とか社会の中で個人が潰されたり歪められたりすることなんだなきっと。切株映画のほうは、むしろ、世間の良識とか描写の限界とかに果敢に挑む力強さがまぶしくて、素敵に見えちゃうんだな。
  
 …郷田マモラは、死刑にも裁判員制度にも「反対」とは一言も言ってないんだよね。ただ、それらを題材に作品を描くだけで。そして、死刑を容認する人は、えてして死刑を実際に執行する刑務官のこととか考えないようにしてるっぽい。刑務官を作品で描くだけで「死刑に反対なんですね」なんて目で見られちゃうからね。面白いよねー。
 残酷描写を規制させようとする人たちが、夫や息子を戦争に送り出す。そこ(戦場)では映画なんか及びもつかない残虐な光景が繰り広げられるんだけどね。死刑を執行する刑務官のストレスは大変なんだよという話に耳を貸さない人たちが、死刑判決や死刑執行に喝采を送る。似てるんだよな。
 だから僕はやっぱり、切株映画を支持しなきゃいけない。もう趣味じゃなくなった、といっても、僕はやっぱり切株映画の側に立たなければいけないのだ。真実に対して誠実なのは、いつもこちら側だからだ。