新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

今って194何年だと思う?

 会社が傾きかけている。売り上げは急角度で下がり、タイタニックの甲板のようだ(勾配がきつい)。首脳陣はお気楽に笑っているが、現場は青ざめて右往左往している。かつて会社で歴史好きの先輩と、会社について語り合うと、「今って昭和にたとえるといつぐらい? もうノモンハンは過ぎたと思うんだよね」「いや、とっくに開戦してミッドウェイで負けた頃では」なんて話になっていた。しかしこの会話はもう何年も前のもので、最近だと「牟田口中将は誰だろう?」「栗田が反転したのはいつ頃?」なんて話になる。インパール作戦みたいな無謀なプロジェクトがいくつもあるし、起死回生をねらったプロジェクトが最後の最後でおじゃんになることも相次いでいる。まこと、歴史は繰り返される。
 こんな自虐的なことはあまり他の人は考えないだろう、と思っていたら、そんなことなかった。宮崎駿が彼の絵本『泥まみれの虎』でこんなこと言ってた。

 今の時代はな、ナチスドイツの崩壊した時代に居合わせたようなものだ

 なるほど。このインテリ・天才・大芸術家ですら同じようなこと考えてんのね。ただし、比喩を日本帝国にとるんじゃなくてナチスドイツにするあたりスタイリッシュだ。
 この本の原典は→ 
 不思議なことに、オットー・カリウスの著書を読むと、これは“戦争の本”ではなくて“仕事の本”であると思う。彼は仕事人なのだった。劣悪な環境、強力な敵、足を引っぱる上司…に負けずに天職をまっとうした職人の記録なのであった。
 どんなときも、いや苛酷な状況であればあるほど、現場は真摯に働こうとする。だから終戦処理というのは難しい。負け戦がきわまったときでも、最前線には戦闘意欲が溢れてたりするからだ。では司令部や大本営はどうかというと、負け戦におののいてしまうのだ。まだ司令部に敵が肉薄しているわけじゃないのに。むしろ敵と目視で白兵戦になってしまった前線よりも、見えない敵におののいて正しい判断ができなかったりする。その支離滅裂な命令がまた現場の足を引っぱるわけで。そんな話の映画と書籍を。
  
 映画「ヒトラー〜最後の12日間〜」はヒトラーの秘書目線のベルリン陥落始末記。右の本は某大ヒットした小説のタイトルにあやかった題名がついていますがそんな安っぽいもんじゃなくて、ちゃんとしたヒトラーの伝記です。ちゃんとした、というのはちょっと語弊があるかもしれないけれど。なにしろ最初に書かれたとき、想定読者はたった1人しかいなかった。ヒトラーの生死に疑いを抱いていたスターリンが、捕虜にしたヒトラーの従卒たちの証言を情報局にまとめさせた報告書がこれなんですね。だからなのか、面白く読めます。スターリンが「つまんない」と思ったら、報告書書いた人は更迭されるでしょうからね。命かかってます。気合い入ってます。
 これらを見ると、組織が滅びようとするとき、現場はてんてこまいで死ぬほど忙しいことになってるけど(仕事がうまく回らない、あちこち梗塞している、被害は拡大中…だから忙しくて当たり前)、司令部・大本営は堂々巡りで時間を無駄にしてばっかり、ってことがわかります。あろうことか、乱痴気騒ぎまで。いや気持ちはわかるけど。
 毎日仕事してて、「今日は昭和でいうと何年の何月かな?」と思います。やはり宮崎駿ほどおしゃれじゃないのでドイツ時間では考えられない。日本時間で考える。昭和20年8月で終わる時計の、今はいつごろか考える。太平洋戦争の山場は、いくつもありますが、前半はミッドウェイとガダルカナル、後半はレイテと沖縄でしょうか。インパール作戦も入れるべきか悩みますが、大作戦だけど主戦線とほとんど関係ない感じなので悩みます。しかし末端の戦場で死んだ人も、天下分け目の決戦で死んだ人も、いずれもその死は等しい。僕の仕事も末端の戦場です。戦果もさして期待できないし。でも働く。お客がいるから。彼らに商品を供給し続けなければ。
 太平洋戦争は負け戦ですが、いい話がいっぱいあります。そんな話の一つをご紹介して今日はおしまいにします。
 
 もう戦争も末期の昭和20年、沖縄戦線へ本土から特攻機が出撃していくなか、特攻はしない、夜間の銃撃爆撃を繰り返す、という方針で臨んだ航空隊の話です。特攻は悲壮ですが、送り出したらあとのフォローは必要ないので、部隊後衛は楽と言えます。気持ちはそうじゃないでしょうけど、仕事としては楽なのです。しかしこの本に描かれた航空隊のように、繰り返し爆撃をする、となると帰ってくるのも大変だし(そのため単座の戦闘機ではなく複座の艦上爆撃機なのです。ナビゲータ必須)、疲弊した機体をメンテしてやらなきゃいけないし、乗員の練度も上げなくちゃいけない…仕事の複雑さはいや増します。こういった大事なことを捨ててしまったという意味でも、特攻作戦というのは非人間的なものだといえましょう。余談ですが。あ、タイトルにある「彗星」というのは艦上爆撃機の名前で、日本では珍しい水冷エンジン搭載機です。この機種の話も面白いし、この部隊がなにゆえこの機体を選んだか、という話も素晴らしいです。