新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

すべての戦争映画好きは「トロピック・サンダー」を見なければ

 遅ればせですみません。すべての戦争映画好きはもう「トロピック・サンダー」を見てしまっているのでしょうが、僕はやっと今夜見ました。
 
 この映画はすごいですね。80年くらいからの戦争映画好きにはこたえられません。僕は「地獄の黙示録」「プラトーン」「ハンバーガー・ヒル」「フルメタル・ジャケット」を封切りで劇場で見てきた世代なので(実際に当時は劇場に行ってたし)、本作がおちょくっているこれらの作品のシーンがいろいろと心にこびりついている。本作を見るとそれらが鮮やかにフラッシュバックしてくるわけで、それは至福の瞬間です。
 僕が子どもの頃、戦争映画は存在そのものが事件でした。テレビで「史上最大の作戦」をやるときは必ず2週にわたって前後編。修学旅行と「遠すぎた端」が重なったときは、みんな旅館で枕も投げずにテレビに齧り付きました(それも前編なんですけどね)。大晦日の夜に「パットン大戦車軍団」を見て夜明かししたり、アリステア・マクリーンの「ナバロンの要塞」の続編はどう映画化されるのか気を揉んだりしてました。高校では寄宿舎に入ったのですが、「戦争のはらわた」のテレビ放映のときは舎監の先生といっしょに講堂で見ましたよ。70年代の戦争映画は、まだ第二次世界大戦が主テーマでしたね。ベトナムはまだ取り上げられてなくて、老いぼれたジョン・ウェインが「グリーンベレー」を撮ったりしましたが、あからさまなプロパガンダぶりに子どもですら見てしらけました。
 そして「地獄の黙示録」の公開とともに牧歌的な、古き良き戦争映画の時代は終わりを告げたのです。これからはリアリティの時代であり、戦争や国家への不信を描く時代であり、拗ねてみせなければ戦争映画なぞ撮ってはいけない、と言われたような気がしたものです。「ディア・ハンター」とか「タクシー・ドライバー」ですね。後者は戦争映画ではありませんが、僕的にはテーマは戦争以外の何物でもない、帰還兵の暮らしぶりというのは。もちろんそんなのばかりじゃなくて「デルタ・フォース」とか肩に力の入らない作品も作られていたのですが、あまり歴史にも記憶にも残ってません。「ランボー」もこの頃公開ですが、地味だったので目立たなかったですね(いま見るとすごい名作なんですけど)。
 やがて「地獄の黙示録」などが風穴をあけたベトナムものに、一大収穫のときが訪れます。「プラトーン」をはじめとするベトナム世代の映画人の登場です。オリバー・ストーンは前にも書いたけど、すごい映画人です。けど、すごすぎてクサく感じるときがある。「プラトーン」を見て「これはイケる!」「凄いな。でもクサい。俺ならもっとうまくできる」と他の映画人が思ったかどうかわかりませんが、この時期はベトナムをテーマにすればいくらでもカネが集まった感じですね。イギリス人職人監督が「ハンバーガー・ヒル」を撮り、巨匠が「フルメタル・ジャケット」を撮る。これら大作が人々の耳目を集めているかたわら、チャック・ノリスが「地獄のヒーロー」をやったり、「ランボー」の監督がMIAものの「地獄の7人」を作ったり(しかも製作はジョン・ミリアスですから「黙示録」の血統だと言えましょう)している。これも憶えてる人は少ないでしょうが。ニック・ノルティもこの頃活躍したような気がします。
 で、戦争映画が家族の(と言っても父ちゃんと息子のみですが)娯楽の中心ではなく、個人の思索の対象となっていき、やがて世代や時代の葛藤と重なってくるようになります。そして時は流れ、「7月4日に生まれて」とか「カジュアリティーズ」とかさんざっぱらベトナムが消費し尽くされると、湾岸戦争がちょっとテーマになり(「戦火の勇気」「スリー・キングス」…)、90年代末にCGの実用化とともに再び第二次世界大戦が主戦場となります。「プライベート・ライアン」「シン・レッド・ライン」)
「トロピック・サンダー」には、これら僕の上を駆け抜けた戦争映画のエッセンスが、たっぷりと込められていました。主演の3人(スティラー、ダウニーJr.、ブラック)にも、助演たちにも、いちいち「お前のモデルは誰々だ!」と突っ込みたくなる愛しさを感じ。ほんとはスティラーが、ベトナム映画に出る友人俳優たちの「映画のために新兵訓練に参加して、戦争の苦しさがわかった」とかってコメントに反感もったことがこの映画の発端らしいのですが、それにしたってパロる相手への敬意をひしひしと感じました。これはおまけディスクの偽ドキュメンタリー見るとより感じます。ああ、この出だしは「シン・レッド・ライン」をおちょくってんな、とか。

 なつかしい、同窓会のような気分になる作品でした。そういえばベン・スティラーって同い年かもしれないな。ごめんなさい、この気分は他の世代の人には伝わらないかもしれないなー。