新々リストラなう日記 たぬきち最後の日々

初めてお読みの方は、<a href="http://tanu-ki.hatenablog.com/entry/20100329/1269871659">リストラなう・その1</a>からご覧になるとよいかも。

貧困に関する本、素通りできないんだよ

 風邪で寝ているので、本を読むのだ。これでは良くならないのだが。
 いやー、これは面白かった。著者は写真を撮りながら世界を放浪する方で、世界各地のスラムや路上生活者とともに寝起きして、そして知ったことを順序立てて教えてくれる。「貧困ってなんだろう講座」なのだった。
 せっかくの写真は本文にモノクロで小さくレイアウトされている。けど、すごい。両手両足がないインドの物乞いの写真とか、頭ぱっくり割れて血を流してる子どもの物乞いとか載せて、その傍らに「見た目で得られる金銭が違う」とかドライなキャプションがついている。趣味悪いなー、とも思うけど、この人はこういう物乞いたちと同じものを食べて同じ場所で寝る経験を積んできた、少なくとも読んでるだけの僕なんかよりずーっと「彼ら」の側に立つ人なのだ。だから彼の写真には、黒柳徹子とかの番組に施される演出は感じられないし、自然に淡々と受け容れられる。良い。そして文章が達者だ。路上生活について語るとき、衣・食・住と話を進めていき、性生活にまで踏み込む。しかもいやらしくない。サラッと語る。それでいてエネルギッシュだ。剥き出しの生命感みたいなものを伝えてくれる文章だ。
 ムンバイの路上生活とナイロビの路上生活がどれだけ違うか、俺は全然知らんかった。アジアとアフリカじゃずいぶん違うんだって。アジアは職業別、家族別に暮らす。アフリカは男女別、年代別になるらしい。それはアフリカのほうがずーっと治安が悪いからだと。強姦や強盗などの犯罪をやる側(少年や青年)、犯罪の被害に遭う側(年寄り、女性、幼児)は自然に分かれて暮らすよね。そして路上生活者は普通の家に暮らす人たちとまったく没交渉になるんだと。犯罪がからんでいたりするから。だけどアジアでは、輪タクの運転とか新聞売りとか、物乞いまでが一般人と何らかの接触をしながら暮らしているから、アフリカほど治安が悪くならないらしい。路上生活者も、犯罪にコミットするメリットよりも一般人と平和にコミットするメリットのほうを選ぶんだね。そしてこういう傾向はHIVの普及率、じゃなくて罹患率とか、犯罪の多さによる国家の損失、海外からの投資の多寡にまで関係してくる。なにしろアフリカは強姦・強盗だけじゃなくてそもそも戦争が多かった。その難民が路上にあふれ、難民の子どもを軍事組織がさらって兵士にするって循環があるくらいだ。おお、内海文三の小説のようだ!
 もともと僕は貧困モノの本が好きだったわけじゃない。むしろ、こんな本を読んでいた。
   
 この人、最近脱税で告発されたらしいですが、書いてることは面白かったですよ。http://www.paperbacks.sakura.ne.jp/index.php?option=com_content&view=article&id=469:2009-03-08-10-34-28&catid=1:latest-news&Itemid=1


 僕が「階級」とか「社会階層」のことを考えるようになったのは、数年前だとこれがきっかけ。
  おまけに
 もともと著者のポール・ファッセルは『誰にも書けなかった戦争の現実』が好きだったのですが、まあそれは第二次世界大戦の話なのでちょっと遠い。しかし『階級(クラス)—「平等社会」アメリカのタブー』は、ちょっと前に書かれたとはいえ現代の話です。ま、この本が書かれてからいくつもバブルを経験して富裕層の傾向もだいぶ変わったでしょうけど、いわゆるオールドリッチの文化の奥深さ、面白さ、愚かさについて、皮肉をまじえながら丹念に述べた本書は、これからもずーっと価値を持ち続けるでしょう。版元品切れのようですが。
 そして三浦展の以下のような本で、僕たちが今生きている日本での社会の分化、断裂みたいなものを意識しました。
  
 でも三浦展の本は『下流社会』の後はあんまり収穫がない感じ。下流な人々への怨みみたいなものが感じられた頃は面白かったけど、最近は調査の数字をこねくりまわして、嘘っぽい仮説に導いてるだけみたいな気がする(あくまで気がするだけですが)。
 そして、機会があってビジネスクラスに乗ったり、ラウンジを使ったり、金持ちが多いリゾートに行ったりして、ニューリッチな世界を垣間見たりしたんですが。なんか性に合わないなー、というか、そこに居る人たちがあまり好きになれなかった。とくに日本人の社長さんたちね。部下にアテンドさせて人使いが荒かったりして、エレガントじゃないのを何度か見た。なんだかね。臼井弘文の本も、それなりに面白かったのですが、まあ結局は飽きた。臼井氏じゃないけど、こういうニューリッチ志向の人の主催する集まりにくる人って、なんかイヤなんだよね。
 僕は、そこに「人生の真実」みたいなものを見いだすことができなかった。
 結局、僕は、人生の諸相を考えるときは、貧困ものの本を読むようになった。雨宮処凜とかね。これらも無条件に素晴らしいわけじゃないけど、こっち側にはぎりぎりの人生の真実があると思うの。


 アパートのすぐそばを首都高が走っており、その高架下にちょっと広い中央分離帯がある。以前、ここにはたくさんのホームレスが棲み着いて、テントだの段ボールハウスだのを建てていた。
 一昨年だったか、都知事が五輪を東京に招致しようだの世迷い言を言いだした頃、中央分離帯を囲んでいた白いガードレールが撤去されて、ホームレスも立ち退かされ、工事が始まった。できあがったのは高さ2メートルくらいのフェンスだった。中央分離帯にホームレスを入れないための、フェンス。
 バカじゃなかろうか、東京都は。
 こんなことでホームレス排除してどうするの? そら見たことか、最近のいっそうの不景気で、フェンスの外にホームレスがまた集まってきている。高架下は、雨をしのぐのに貴重な場所なのだ。
 俺の税金を使ってこんなフェンス作りやがって、東京都のことは二度と信用せん! 五輪招致だって邪魔してやる。それよりも、『絶対貧困』の世界が徐々に身近になっていることを考えねば。東京のホームレスは付近住民と没交渉になりやすい。彼らのコミュニティで何が起きているかわからないし、彼らの健康もわからない(路上生活者はメンタルを病んでることが多い)。俘虜死や犯罪の可能性が高くなる。都議会議員に『絶対貧困』読んでもらいたいね。そして、路上生活者と共存する都政を実現してもらいたい。五輪なんか要らないからなー。